家庭を優先させながら、仕事の効率を上げる

 カルビーは現在、国内を四つのカンパニーに分けていて、2番目に大きいカンパニーのトップは女性です。

 「社員が約900人、工場は三つ、営業所や支店があり、すべての権限は彼女が持っています。3年前に彼女がトップになったとき、私は会長として一つの命令をしました。普段は命令などしませんが、これを守らなかったら降格すると言い渡しました。それは『午後4時に退社しなさい』ということです」

 彼女は結婚していて子供が二人います。会社の重責と家庭を両立するためには、午後4時の退社は絶対に必要である、と松本さんは言います。

 「通勤に1時間かかり、スーパーに寄って5時半に家に着き、6時半には家族と一緒に食事をする。こういうロールモデルを作らないとダメなのです」

 彼女は、会社の用事とPTAの集まりがあったら、PTAを優先させるそうです。

 「カルビーでは、ワークライフバランスではなく『ライフワークバランス』です。ライフのほうが大事なのです。家庭を大事にする魅力的な人が、よりよい仕事ができるのです。ダラダラ仕事をして、夜には飲み屋で上司の悪口を言う。そんな人間が会社をよくできるはずがない。会社は、魅力的な人材を作るための工夫をすることが重要です」

 しかし、ダイバーシティが進まないと嘆くトップには、便利な言い訳が二つあると言います。管理職にする女性の人材がいない、管理職になりたいという女性がいない、この二つとも、“真っ赤な嘘”だと松本さんは断言します。

 「人材の問題は、まず『新しいポジションには女性を配置する』と決定した後に、そのポジションにふさわしい人を探せばいいのです」

 また、女性が管理職になりたがらないという問題には、理由があると言います。

 「男性は、権力、権威、責任、身分、肩書、名刺が大好きだが、女性はこれらを欲しがらない。管理職になって責任が増えて仕事もヘビーになるのに、報酬と見合わなかったら意味がないと考える。これは健全な考えです。収入と仕事のバランスが合えば、女性も積極的に管理職になります」

 「ダイバーシティはやるっきゃない! やらないと生き残れない。だから私はむきになってやっているんです」と、松本さんは力強く結びました。

文/芦部洋子 写真/古立康三