女性の活躍推進や役員登用は「女性」のためだけではない

第一生命ホールディングス会長・渡邉光一郎さん
第一生命ホールディングス会長・渡邉光一郎さん

 「失われた20年」という言葉通り、日本経済は低迷期をたどり、バブル崩壊前の勢いはいまだ取り戻せていない。日本企業が女性の活躍を推進すべき理由は「世界的に見ても女性活躍推進で遅れているから」といった後ろ向きな理由ではなく、女性の活躍が企業の持続的な成長を促し、日本経済が再び成長軌道に乗るための最強の「武器」となるからだ――。渡邉さんの講演からは、日本経済の危機といえる現状を打破するための覚悟が感じられた。

 今や「女性活躍企業のトップランナー」ともいえる第一生命保険だが、改革の出発は女性活躍推進自体が目的ではなかったという。

 「いつの時代も我々が目指すのは顧客満足度の向上。そのためには「どれだけいい商品を生み出しても、それを扱う社員の仕事や職場における満足度が低ければお客様を満足させることはできない」と考えていました。そうした考えの下で従業員の満足度調査を実施したところ、愕然としました。最もお客様と接点を持つ女性社員たちの満足度が低かったのです」(渡邉さん)

 同社は女性の管理職登用やそのための能力開発、両立支援のための制度などを急ピッチで整備した。渡邉さんは、女性が活躍するには三つの柱が必要だと語る。

 「一つは意識・風土改革。つまり、会社の風土や社風を変えること。女性活躍推進やダイバーシティが当然となる企業文化を培うには、管理職の意識改革が重要になります。二つ目に能力開発、研修の仕組みの整備です。これらを通じて女性社員に『経営目線』『リーダーシップ』を醸成してもらいます。そして三つ目がワーク・ライフ・バランス。家庭との両立を支援する制度の整備は必須です。そしてこの三つの施策は、同時に遂行することが不可欠です」

 こうした取り組みの結果、同社では「一般職」として入社した二人の女性が執行役員に昇進している。渡邉さんは「女性の役員登用そのものを目的化しない」との考えとともに、女性登用にはロールモデルが必要だとも指摘する。「ロールモデルが新たなロールモデルを呼ぶような仕組み」こそが、次に続く女性社員の意欲を引き出し、キャリアアップ意識やモチベーションを向上させるからだ。