猛烈に働く時期に彼との間に亀裂が

 明美さんが勤務する広告制作会社は、ニッチな分野でトップシェアを誇っており、明美さんが入社した頃はちょうど伸び盛りの時代でした。タクシー代などの経費はほぼ使い放題。その代わり、昼夜を問わず働くことが求められたのです。バブル経済期のようですね……。

 「ディレクターになってから3年間ぐらいは本当にきつかったです。私はアシスタントの期間が短かったので、スタジオでも分からないことだらけ。常にあたふたしていました。睡眠時間が足りないことよりも、お客さんに信頼されていないのが悲しかったな。でも、打ちのめされたまま終わるとダメな自分になってしまいます。いつか見返してやる、という気持ちでますます仕事にのめり込みました」

 当時、明美さんには長く付き合っている恋人がいました。九州での大学受験浪人時代に出会った新一さん(仮名)です。二人は仲良く上京して、学生時代を通して幸せな恋人関係を続けていました。

 「体格がいいスポーツマンで、マイペースで純粋だけど頼りがいがあって優しい人です。すごくモテるタイプなのに私一筋でいてくれて、だからといってネチネチと束縛したりはしません」

 夢見るような表情で新一さんを思い出す明美さん。二人の間に亀裂が生じたのは、明美さんが事務職からディレクター職に転じて猛烈に働き始めた頃です。ひたすらマイペースな新一さんは大学を留年して卒業した後も、アルバイトをしながらのんびりと公務員試験を受け続けていました。