「のび太系男子」はなぜ誕生した?

 それにしても不思議なのは、本来ぐうたらなダメ少年ののび太を、彼らはなぜロールモデルにしてしまったのかということ。実はその理由は、彼らの世代的特性にあります。

 現在30~40代の男性は、「団塊ジュニア」「ポスト団塊ジュニア」と呼ばれています。幼少期から個性を重視しない偏差値社会にもまれ、学生時代は受験戦争と就職氷河期に苦しめられました。お気楽なバブル経済の好景気も、彼らが就職する頃には終わってしまっていました。

 彼らの中で正社員として就職できなかった人は、後に「ロスジェネ」と呼ばれ、割を食った世代として社会問題化します。一方、正社員として就職できた人を待っていたのは、勝ち組と負け組がハッキリ分かれる、超実力社会でした。

 なにせ人口が多い世代なので、同期のなかでも花形部署で活躍できるのは、ほんの一握り。残りの多くは辛酸をなめまくり、長きにわたって劣等感にさいなまれることになります。

 時を同じくして、彼らがかつて大好きだった「ドラえもん」ののび太が、再評価される機運が高まります。時期でいうと1990年代後半から2000年代初頭。のび太が「いいやつ」として描かれているエピソードが文庫版に収録されて大人読者の間で話題になったり、のび太を主人公とした原作の感動話が劇場版の短編として公開されたりしたのです。

 極め付けは、2004年に発売された「『のび太』という生きかた」(横山泰行・著/アスコム刊)という本でした。同書は現在までに20万部以上売れているベストセラーですが、そこにはのび太の従順さ、素直さ、無垢さは美点であり、それらが人生において良い結果を招く……と主張されていました。

 こうして彼らは、自らの劣等感を克服するため、「のび太のように生きてもいいんだ」という考えに、救いを見いだしたのです。