広報に必要な5つのスキルとは?

――では、広報に求められるスキルは、どのようなものが挙げられるのでしょうか?

 私は、大きく分けて5つのスキルが必要だと思います。それは、
 ・危機管理能力
 ・業界を俯瞰(ふかん)する力
 ・柔軟性
 ・継続する力
 ・気配りする力
 の5つです。

 では、5つのスキルについて、説明しましょう。

 「危機管理能力」は、事件や事故、不祥事などが起きてしまった際に、客観的な視点を持って冷静に対処する力のことですね。

 先ほども説明しましたが、大きな震災や災害が起きたときは、「お祭り」のリリースを出さないということも、危機管理能力の一つ。「相手がどう感じるか」を考慮して、対処するスキルが必要です。

 「業界を俯瞰する力」は、自社の特徴を把握しつつ、業界内でのポジションをしっかりと見極めることです。

 極端な例ですが、「自社で世界初の○○の開発に成功した! 記者会見を開こう!」と社内で盛り上がったとします。ですが、類似商品が同業他社で既に発売されている可能性はゼロではありません。経営者も開発担当者も、意外と細部の情報は拾い切れていない場合があります。

 そこで、広報が業界を俯瞰し、客観的で冷静な視点を持つことが必要になります。広報は、「片足は会社に、片足は社会に」という姿勢が大切だと思います。

 「柔軟性」とは、さまざまな意見を受け入れた上で物事の判断を下す力のこと。自分と異なる考えを持つ人に対して、最初から否定してしまうのではなく、一度相手の意見を受け入れてみる。そして、自分の意見も伝えることですね。広報は、多様な人たちとやり取りをしながら仕事を進めることが多いので、柔軟性はとても大切だと思います。また、そうしたほうが、相手と円滑なコミュニケーションを取ることができますし、ムダなケンカを引き起こすこともありません。

――「継続する力」「気配り力」とは、具体的にどのようなことでしょうか?

 「継続する力」は、例えば、SNSを通じた情報発信の継続が挙げられます。最近はさまざまな企業が自社商品のPRのためにSNS用のアカウントを作っていますよね。そのアカウントも、更新が続かなければ意味がない。「目的と戦略を持って情報を出すこと」が重要ですが、さらに継続する力がなければ、アカウントは一般のユーザーから忘れ去られてしまいます。SNSの更新は一例で、一つのことを継続する力はあらゆる場面で必要かもしれません。

 「気配り力」は、広報に限らず、社会人として必要なスキル。同じSNSでの情報発信で考えると、投稿の際に個人情報漏えいや肖像権の侵害がないかどうか細心の注意を払うことは必須ですが、そのほかに「これを見た相手がどう思うか」という気配りも必要です。想像力を常に働かせるのです。

 ほかの例でいえば、自分が化粧品メーカーやファッションブランドの広報をしているのであれば、「企業の顔」として外見を磨いたり、美をキープしたりすることも一つ。「相手からどう見られているか」を忘れてはいけないと思います。

広報に必要な「5つのスキル」は、広報以外の人もぜひ身に付けたいですよね (C)PIXTA
広報に必要な「5つのスキル」は、広報以外の人もぜひ身に付けたいですよね (C)PIXTA

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 広報の業務は多岐にわたり、とてもクリエーティブな仕事だということがよく分かりました。「5つのスキル」は、広報以外で働く人も身に付けたいスキルです。

 次回からは、自動車メーカーから化粧品メーカーまで計7社の広報女性の仕事術をご紹介します。

文/浜田寛子 写真/PIXTA

この人に聞きました
伊藤 緑
伊藤 緑(いとう・みどり)
「広報ウーマンネット」代表。Green Label合同会社代表。2001年より、ITベンチャー企業Klabにて広報業務に就任。企業広報、商品広報、社内イベントなどを行う。2005年~2008年まで、宣伝会議社の広報専門誌PRIR(現:『広報会議』)で取材・ライティングを担当。2006年「広報ウーマンネット」設立し、広報女性約1200人が集まるコミュニティを運営。2016年Green Label合同会社設立。