かぶり物で記者発表会など「むちゃ」連発

 会社の個性を発信したいという思いから、チャレンジも重ねました。

 「会社はある意味『家族』。特有の雰囲気やキャラがあります。そうした顔が見える会社のほうが、依頼者や社会にとって分かりやすく、信頼にもつながると考えています。真面目に理念を追求してはいるけれど、面白集団でもあることを発信したいと思いました」

 そこで、記者発表会で家の形をした段ボールをかぶって社員が説明をしたり、エープリルフールに「当社の社長を総選挙で決めます」「社名を『さくら咲く事務所』に変更します」などの「フェイクニュース」を流したり。「結構むちゃをしました。でもいろいろなアイデアを私が出すと、皆もおじけずに乗ってくるし、当時の社長も結構率先してやってくれたので助かりましたね」。もちろんさまざまな試みは話題になり、知名度向上に貢献していきました。

 さくら事務所に関わるまで、大西さん自身は不動産を取引した経験がなく、専門知識はほとんどなかったといいますが「一般の顧客と同じ視点を持っていることが逆に強みになると思いました」。自分が分からなかったりつまずいたりすることは他の多くの人にとっても同じと考え、社内の専門家に聞いたり本を読んだりして調べ、それを会社のブログやSNSで発信していきました。

「専門家の話は、実は素人にとって『面白い』とか『へえー』と驚くようなネタの宝庫なんですが、専門家自身はそれに気付いていないことが多いんです。インスペクターが現場に行くときはよく連れていってもらいました。顧客が何に困って何に喜んでいるか、たくさん見たことは財産になっています」

 一般顧客向けのツイッターなどを使った情報発信は、現在は広報チームが担当しています。広報の担当者を新規に採用するときは、できるだけ未経験者を優先するそうです。「仕事に慣れができると、自分たちの共通言語のようなものがにじみ出てしまいがちなので、一般のお客様の感覚とかけ離れないように心掛けています」

 広報担当として、社会からの期待やニーズを社内にフィードバックし、その中で新しいサービスや商品の開発、働きやすい社内環境の整備などを手掛け、気付いたら職能が広がっていました。また「中古住宅の診断が全国で利用できるためには、一企業を超えた業界横断の組織や仕組みが必要」と、日本ホームインスペクターズ協会を2008年に設立し、理事に就任。広報からスタートしたキャリアの幅は大きく広がり、2011年にさくら事務所取締役に就任、2013年に社長を引き継ぎました。

 大西さんは、広報担当者にはどういう資質やスキルが求められると考えているのでしょうか。

 「個人的には『あったかいおせっかい精神』がとても必要だと思います」。一歩踏み込んで「知ってたほうが絶対得するよ」とか「ちょっと面白いから寄っておいで」というようなキャラクターや、何かを言い出せなくて困っている人の空気を察して言いたいことを引き出してあげるような、おせっかい精神が根本にあることが大切といいます。

 「広報には、決まった型のテクニックやスキルがあるわけではなく、その人の個性次第。人を助けたい、役に立ちたいというホスピタリティマインドが強く、その情熱を自分で燃やし続けられる人なら、スキルはいくらでも付いてくると思っています」