「それぞれに別の美しさを持つ」と考えられる世代
なぜ「尋常ならざる気持ち」になってしまうのでしょうか。それは、自分の人材価値が「メディアが提示した勝ち組キャリアモデルにどれだけ近いか」というたったひとつの物差しだけで、自動的に偏差値化されてしまいがちだからです。
ですが、本来仕事とは、否、人生とは、そんな単純な、「成功モデルへの接近度」だけで価値が測れるものではないはずです。
うさぎちゃん(プリンセス)になれないからといって、不幸せな人生ではないのと同じ。亜美ちゃんには亜美ちゃんなりの、レイちゃんにはレイちゃんなりの、輝ける瞬間と必要とされる場所が用意されている。『セーラームーン』という作品には、それがちゃんと描かれていました。
それぞれ違う私たちは、それぞれ別の美しさを持つ。それぞれに適材適所があり、それぞれに替えのきかない役割がある。そんなセーラームーン世代の思想は、ビジネスシーンにおいては、正直、青臭い考え方かもしれません。世代によっては、「ゆとり世代の甘っちょろさ」と一刀両断するでしょう。
しかし今、世界各国の先進的な企業は、セーラームーン世代の価値観にそっくりの考え方を導入しつつあります。多種多様な年齢、性別、価値観の人材を積極的に雇用・活用しようという思想、「ダイバーシティ」です。
「育児中で時短勤務の女性は使いづらい」のではなく、母親だからこそできる発想を業務に活かす。「関連会社の人員整理で回されてきたオジサンだから使い物にならない」のではなく、豊富な社会人経験を活かした担当を与えて、ポテンシャルを引き出す。
それこそダイバーシティ、適材適所の究極です。『美少女戦士セーラームーン』は、そのような先進的な思想を20年以上前から実践していました。
無論、現在の日本で「勝ち組キャリア」の呪縛はまだまだ根強いですし、ダイバーシティなんて現実的じゃない、机上の空論だと一蹴する人が多いのも事実です。
しかし遠からぬ未来、セーラームーン世代が会社の要職を担い始めれば、日本の雇用環境は、そして世界の常識は、きっと大きく変わるでしょう。
次回の記事は8月23日に公開予定。セーラームーン世代の友情と恋愛について考えてみます。
文/稲田豊史 画像/(c) Naoko Takeuchi
『セーラームーン世代の社会論』 著者:稲田豊史 出版:すばる舎リンケージ 価格:1400円(+税) ■ Amazonで購入する |
記事一覧ページはこちら ⇒アラサー世代とセーラームーン―影響力のひみつ