「貯めなきゃ」の焦りの原因は貯蓄がないことではない

 実際に、不安を強く感じている人ほど、がんばって貯蓄しています。ある30代の女性は、「人生の最低最悪のケースでいくらかかるかを想定して、それを目標に貯めたい」と相談に来ました。老後資金のために約2000万円、介護に備えて約300万円、病気に備えて約100万円~300万円など、考えられるリスクを挙げていくと、想定される必要資金はどんどん膨れ上がっていきました。しかし、いくら最低最悪を想定しても、想定外のことは起こりえます。いくら貯めても、不安がゼロになることはないのです

 つまり、「貯めなきゃ」という焦りの原因は、「お金がないこと」ではなく、「人生の変動リスク」なのです

「貯める」ばかりでなく「増やす」ための戦略も考えよう

 そこでおすすめしたいのが、「貯める」よりも「増やす」発想です。「増やす」といっても、必ずしも株式投資などをせよということではありません。もちろんチャレンジするのもひとつですが、お金を生み出す自分を育てるのです。たとえば、万が一いまの会社を辞めても、専門性を活かして別の会社に転職できる、ITのスキルを活かしてクラウドで仕事ができる、趣味のパン作りの腕を活かして自宅で教室を開ける、といった強みを身につけるなどです。私はかつて、想定外のタイミングで会社を辞めてしまったことがあるのですが、書く力や話す力のスキルアップをしていたおかげで、執筆や講師の仕事で食いつなぐことができました。

 今の会社や住む場所、そして経済や社会の情勢が想定外の方向へ変わったとき、貯蓄があるに越したことはありません。ですが、すべてを貯蓄だけでなんとかしようとするよりも、収入が続けば負担は軽くなります。人生のステージが変わっても稼げる自分を育てることは、将来のお金を増やすのと同じ効果があるのです

 長い人生には計画性が大切です。一方で、長いからこそ、長期戦に勝ち抜く経済力をつけるためには「貯める」以外の方法も大切です。いま、コツコツと貯蓄をしている人は、ぜひ日頃の努力を自分で認めてあげてください。そして、貯蓄しなきゃという焦りを一度脇に置いてみてください。将来のお金を生み出す力をつけるという視点でお金に向き合ってみると、不安な気持ちが少し軽くなるかもしれません。

※生活費約15万円/月、60歳~90歳まで30年間の合計で概算しています。公的年金で受け取れる金額は12万円/月、65歳~90歳の25年間受け取ると仮定。(年金制度基礎調査平成23年「54性別・世帯類型別・不動産有無別 本人及び配偶者の平均公的年金額」より、厚生年金加入の女性の平均額を使用)

文/加藤梨里、イラスト/梶塚美帆

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