トーク二ズム…昇進したときに味わった私の心の葛藤とは

 ハーバード大学ビジネススクール教授のR.M.カンターの名著「企業のなかの男と女」の中にこのようなことが書かれています。女性は紅一点という状況では、女性は個人として見られず、全女性を代表するトークン(象徴)として扱われて特異な状況に置かれてしまうと。

 「アウトサイダーとしての孤独と、多数派のカルチャーに同化する過程での自己疎外を招くこともある」「トークンである女性は、トークニズムのプレッシャーのため、いつまでも真の力を発揮できず、発揮したとしても例外としてしか評価されない」とカンターは記します。

 また、カンターは、組織の中の多数派と少数派の比率を重視し、「黄金の3割」を提唱しました。これは組織のマイノリティーが3割を超えると組織に影響を与える、少数派もトークンではなく個人として存在することが可能になるということです。

 この言葉を知ったときに、「そうか!」と膝を打ちましたね。日経WOMAN編集長時代の会議は、女性は当然「黄金の3割」を超えていたので伸び伸び振る舞うことができたけれど、発行人になったときは、そうではありませんでした。紅一点となりがちでした。このトークニズムのプレッシャーに苦しめられていたんですね。

 私は、社会人となって以来日経WOMANをはじめとして女性媒体に関わることが長く気付かなかったのですが、この不安感が多くの働く女性が持っていたものだったのだと遅まきながら分かりました。当然ながら組織の多数派である男性はこういう気持ちを味わうことがありません。男性という象徴でなく、その人個人として扱われるからです。先ほど組織の中の女性比率が重要になると書いたのは、そういうことなのです。

 もう一つ、「インポスター(ペテン師)症候群」という言葉を知ったときも、膝を打ちました。

自分の居心地を悪くしていたのは「ペテン師症候群」

 これは、発達心理学者のスーザン・ピンカーの著「なぜ女は昇進を拒むのか」に出てきます。これは、女性は成功したとしても、その業績は偽物にすぎず、ただ自分は幸運だっただけで、どれだけ世間に認められても自分は「まがいもの」だと思うこと、自分の業績を信頼せず、優秀なフリをして周囲を欺いているような気がするというものです。自分は「まがいもの」なのでいつか化けの皮が剥がれる、いつか自分の無能がばれてしまうので、昇進を打診されても断るということも書かれています。

 この言葉は深く胸に刺さりました。まさに、自分もそうだったからです。

 講演などで「日経WOMAN編集長だった女性」「子どもを二人育てた」と紹介されたり、講演終了後に参加した女性の方から「すごいですね」と言われたりすると、ありがたい反面、居心地が悪くなってしまうことがよくありました。

 「いや、私はたまたま運がよくてそうなっただけで、たいしたことない人間なのに」と思いました。そしてこの本に書かれているように、「いつか本当の自分がばれてしまうのではないか」などとビクビクしていた自分がいたのです。