将来、故郷で活躍する夢を語る子どもたち

――コラボ・スクールの運営では、何が一番大変でしたか。

今村:何から何まで大変だったのですが(笑)、一番は地域で信頼を得て仕事をしていくことです。もともとそこで暮らしている人たちのコミュニティに入っていくので、信頼関係がなければ何も進みませんし、それには時間もかかります。地域の人にたくさん叱られながらやってきて、5年たって最近ようやく形になってきたかな、という感じです。

 その第一ステップが、先ほどお話したような自分が持っている無意識の勘違いや“上から目線”に気付くことです。相手へのリスペクトが前提になければ、本音を言ってもらえません。

――コラボ・スクールは他地域にも展開されていますね。

今村:15年には東京都文京区と島根県雲南市で、コラボ・スクールのノウハウを生かした中高生のキャリア教育施設を行政との共同事業で開設しました。「きっかけさえあれば意欲がもてる」という子が実は多いんですね。子どもたちが、学校外の人との出会いや人間関係の中で、能力やクリエイティビティを発揮していける場所を、これからもっと地域とともに作り、広げていきたいと思っています。

 そのとき、どの地域でも重要なのは、謙虚に、自分たちの実績にとらわれずに、地元のニーズをベースにして授業をデザインしていくことです。自分たちだけで進めようとせず、常に地域の学校や行政と一緒にやっていくほうが成果が出ますし、地域の方にも喜んでいただけるように思いますね。

――コラボ・スクールから、新たな動きも生まれているそうですね。

今村:あるとき、コラボ・スクールで学んだ高校生たちが、「支援してもらってばかりではなく、自分たちも地域のために何かしたい」と言いだしたんですよね。その子たちのアイデアが面白いんです。

 例えば、星と天体が好きなある女子高生は、「大槌町にはきれいな星空があるけれど、東京には星がない。だから私は東京から大槌町に来てくれる人に星のことを教えてあげたい」と言って、「星空ガイド」を務めるイベントを企画しました。大槌町を「被災地」ではなく「星のきれいな町」と呼んでほしいという願いが込められています。

 別の男子高校生は、近所の漁師のおじいさんが震災後、仕事を失い元気がなくなってしまったことを心配して、「町のお年寄りを元気したい」と言い出しました。彼は「お年寄りから高校生が料理を教えてもらう会」を企画し、実際に町の高齢者や友達を集めて郷土料理を習うイベントを開催したんです。

高校生たちがコミュニティで課題を見つけて自分でプロジェクトをつくる「マイプロジェクト」も始まった。大槌の星の美しさを案内する「星空ガイド」を企画(写真左)、住民の思いを刻み、震災の記憶を伝え残そうと、「3.11復興木碑設置プロジェクト」を立ち上げた(写真右)(写真提供:カタリバ)
高校生たちがコミュニティで課題を見つけて自分でプロジェクトをつくる「マイプロジェクト」も始まった。大槌の星の美しさを案内する「星空ガイド」を企画(写真左)、住民の思いを刻み、震災の記憶を伝え残そうと、「3.11復興木碑設置プロジェクト」を立ち上げた(写真右)(写真提供:カタリバ)

――子どもたちが自発的に地域のために活躍し始めたのですね。

今村:こんなふうに、高校生がコミュニティの中で課題を見つけて、自分でプロジェクトをつくる体験型の学習を「マイプロジェクト」と名付け、コラボ・スクールで実現をサポートしています。

 こうしたプロジェクトを進めるには、地域のお年寄りに相談に行ったり、町内会長さんにお声掛けしたりと、必然的に学校外の人たちとの出会いやつながりが生まれます。故郷の原風景に、心を通わせた人や守らなければいけないお年寄りの顔が浮かぶことで、県外に進学しても、いつか地元に戻って活躍したいと思う子どもが増えるのではないかと期待しています。

――「いずれ地元に帰ろう」というイメージを持つと、進学先やファーストキャリアの選択肢も変わりそうですね。

今村:童謡『ふるさと』の歌詞のように、“志を果たして”故郷に帰るのではなく、都会で学んでも“志を果たしに”故郷に帰る流れができたらいいね、と仲間たちとよく話しています。

 「マイプロジェクト」は、今、全国各地の連携する教育機関にも広がっています。13年からはカタリバが事務局となって、全国の高校生たちがマイプロジェクトを発表する「全国高校生マイプロジェクトアワード」を毎年開催しています。昨年は全国58チーム、今年は115チームがエントリーしました。

――人口流出を防いで地方再生を成功させるカギはなんだと思いますか。

今村:地方からなぜ人が出て行って帰ってこないかというと、一つはそこに“同調圧力”があるからだと思うんです。地方ならではの、新しいチャレンジを許さない感覚とか、縄張り意識みたいなものが若い人たちへの魅力を損ねている部分があるのだと思います。「この地域はチャレンジを応援している」と子どもたちが自覚できれば、帰ってきたいという思いも強まるのではないでしょうか。

 それには地域が、チャレンジしている大人たちを誘致したり、多様な経験を持つ大人と子どもとの出会いの場をつくったりして、子どもたちが「この町で、こんな大人になって活躍したい」という未来を描けるようにすることが大事だと思います。コラボ・スクールから巣立った大学生の多くは、今も「大槌町に帰って保母さんになりたい」「消防士になりたい」と、将来、地元で活躍する夢を熱く語ってくれています。

<インタビューを終えて>
 若者の人口流出はどこの地方でも大きな課題です。どうしたら若者たちがその町に居続けてくれるか、または大学進学でいったん故郷を離れたとしても、卒業後に戻ってくれるか――頭を悩ませている人は多いでしょう。

 そんな中、「志を果たしに故郷を目指そうとする」若者がいるというのは大きな希望です。今村さんのインタビューを通じ、そのキーはダイバーシティ(多様性)にあるのではないかと思いました。性差も年齢も問わず多様な人々が活躍し、そういう大人たちと子どもたちが出会うチャンスがあれば、そしてチャレンジすることが称揚される地域なら、若者は故郷に自分の将来像を描くこともたやすくなるのではないかと思います。今村さんの活動及び「コラボ・スクール」出身の若者たちの今後に注目したいと思います。(麓 幸子=日経BPヒット総合研究所長)

取材・文/吉楽美奈子=ライター 写真/矢作常明
(2016年3月31日にサイト「新・公民連携最前線 」のコラム「麓幸子の『地方を変える女性に会いに行く!』」に掲載された記事を転載しています)

『女性活躍の教科書』

女性活躍推進法や女性活躍推進のために企業がすべきことをわかりやすく解説。2015年版「日経WOMAN女性が活躍する会社ベスト100」の各業界トップの20社の戦略と詳細な人事施策も紹介している
著者 : 麓幸子、日経ヒット総合研究所編
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