介護保険制度だけでは対応しきれない

――改めてキャンナスの組織はどういう仕組みなのか教えてください。参加資格などはあるのでしょうか。

菅原:困った時はお互い様、地域のために何かをしたいという志を持つ看護師であれば、参加資格は問いません。キャンナスの理念のもとで、各事業所がやるべきことを決めて動く独立採算制のシステムですから、フランチャイズでもないし、年会費や運営費も発生しません。私を含め、参加者の関係性は、あくまでフラット。最初に立ち上げ費用として5万円を払うことで、キャンナスのパンフレット100部、キャンナスTシャツ2枚、キャンナスの本8冊、DVD1枚がスターターキットとして提供される仕組みとなっています。

 ここ数年で急成長を遂げたキャンナスですが、私はこれまでずっと「キャンナスなんてなくなればいい」と公言してきました。ですが、ここへきて発言を撤回します。今こそ私たちの存在意義があると思い、活動を活発化させ、積極的に発信しています。

――「キャンナスがなくなればいい」とは、どういうことでしょうか。その真意を聞かせてください。

菅原:本来、介護保険制度によって、介護が必要な人たちすべてに支援が行き渡るなら、私たちがボランティアで活動する必要などありません。ですが、現状を見ても分かる通り、制度は逆行しています。政府は介護保険制度にお金を使わないし、いまだに訪問看護ステーションのない地域も少なくありません。だからこそ、キャンナスが今、その役割を担い、困っている地域の人たちの力になるべきだと考えを改めたんです。

 また、現在の介護保険制度内では対応しきれないことが、実はたくさんあります。例えば、趣味で外出するための付き添いや看取り時の長時間のつきそいなどは、介護保険の適用外。そうしたニーズに応えることができるのもキャンナスならではなんですね。

今年、開業の問い合わせが急速に増えた。開業を検討中の参加者にいろいろアドバイスする
今年、開業の問い合わせが急速に増えた。開業を検討中の参加者にいろいろアドバイスする

――キャンナスが全国に広がったことより、地域にどんな変化が起きていますか。

菅原:様々な地域の看護師たちが自分たちにできることをそれぞれ行うことで、まちに活力が生まれ始めていることを感じています。例えば、石川県輪島市では30年以上の看護師勤務にピリオドを打ち、人々が行き交うショッピングセンター内にキャンナスを開設した中村悦子さんがいます。コミュニティカフェを作ってまちの人たちの健康相談にのったり、専門家を呼んで講演会を行うなど、ユニークな取り組みで地域の人たちの健康をサポートしています。

 また、静岡県熱海市では、東京からご夫婦で移住し、訪問介護・介護タクシー事業を行っていた河瀬愛美さんが昨年キャンナスを起ち上げました。熱海市は、住民の約4割が高齢者な上、坂が多い街並みのため、お年寄りにとってちょっとした外出が困難なのだといいます。介護保険ではカバーできないそうした生活サポートのニーズに応えたいと、地域のために頑張っているようです。さらに、被災地で活動するパフォーマー集団と連携して、熱海の温泉旅館やイベントなどでパフォーマンスを仕掛けるなど、まちの盛り上げにも奮闘。それぞれが各地に根差した活動を行うことで地域が元気になっていくといいと思います。