母から教えてもらった「思いは必ず叶う」こと

――エネルギッシュでポジティブなワンダさんの価値観や考え方はどのように培われたのでしょうか。

Wanda:今の私を作りあげたのは、母親の影響が大きいんです。

 私の母は、1960年代の公民権運動に関わっていた活動家で、非常にアクティブな女性でした。当時のアメリカは、まだ黒人に対する差別が根強く残っていた時代。特に我々が住んでいたアメリカ南部のサウスカロライナは保守的で、黒人が同じレストランに行くのも同じ水場やトイレを使うのもダメという本当に差別が激しい時代でした。

 母は当時大学生で、抗議活動の中心的なメンバーの一人でした。ある時、こんなことがありました。通常、黒人はレストランで注文をとってもらえませんでしたが、母は黒人の中でも肌が白かったので、ハンバーガーとコークを注文し、仲間の黒人男性を呼んで食べ始めたんです。すると、店内の白人客が「なんで食べているんだ!」と大騒ぎし、こん棒を持った警察がやってきて母たちを無理やり追い出そうとしました。結局、水砲を浴びせられるような大騒動に発展し、黒人学生らは警察に引っ張られていかれたそうです。

――大変な時代だったのですね。

Wanda:1961年には、活動家として母が警察に拘束されました。ですが、母は独房のなかでも「自由のため、平等のために戦う」という思いを持ち続け、それが自分にとっていかに大事なのかをトイレットペーパーに書き記しました。彼女は、自分の母親に向けてこう書いています。

活動家だったワンダさんの母が自身の母親(ワンダさんにとっての祖母)に向けて書いたトイレットペーパー
活動家だったワンダさんの母が自身の母親(ワンダさんにとっての祖母)に向けて書いたトイレットペーパー

 「ママは私がトラブルに巻き込まれるのを恐れ、活動に参加することを随分心配していたわよね。でも私は、刑務所に入るのは一向に構わない。今、私たちが戦うことで、将来、私たちの子どもがより良い生活をおくることができると信じているし、平等な社会が当たり前という時代がきっとくるから」

 私は、母がいかに平等のため、自由のために戦ったかということを、身をもって知っていますし、アメリカ社会を変えるきっかけの一人になったのではという思いを抱いて育ちました。母は小さいころから折に触れ、「強い思いは必ず叶う」と私を勇気づけてくれたんです。

――素晴らしいお母さまの教えを受け継いでいるのですね。

Wanda:60年代というと、そんなに遠い昔ではありませんよね? わずか40~50年の間にオバマ大統領という黒人初の大統領も誕生しました。みんなが使命感を持ち続けることで、大国であるアメリカ社会もここまで変わることが出来るんです。一人ひとりの意識と行動で世界は変えられるという思いを持つことがとても大事だということ、そしてそれを伝えていく義務が私たちにはあると考えています。

 母は今でも50年前のトイレットペーパーを大切に持っています。今、ワシントンのスミソニアン博物館に、そのトイレットペーパーを寄贈しようかと家族で相談しているところなんですよ(笑)。

トイレットペーパーは、ワンダさんの自宅で大事に保管されている家族の宝物
トイレットペーパーは、ワンダさんの自宅で大事に保管されている家族の宝物

――非常に感動的なお話しを伺いました。最後に日本の働く女性へのメッセージをお願いします。

Wanda:日本の女性は本当にいろんな才能を持っていらっしゃる。それに、社会に貢献出来る能力を沢山備えていると強く感じています。皆さんの声やいろんな考え方が、社会や職場に大きなものをもたらし、イノベーションを生み出す原動力につながります。どうぞ社会のためにその力を存分に発揮してください。

文/西尾英子 写真/鈴木愛子

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