一人ひとり楽しんで心が躍る仕事が理想

――「自分の意見が会社を変えていく」という感覚が持てることは、なによりのモチベ―ションにつながりますね。今後、フルラをどのような組織にしてきたいと思われますか?

倉田:「一人ひとりが楽しんで、心躍る仕事をしている」という組織が私の理想です。みんなが心から楽しめる状態で働くことができれば、周りの人にもパッションや愛情を注ぐことができ、互いに刺激し合えます。そういう人が増えていくと、組織もどんどん強くなる。
 そのために大切なのが、「自分がどうありたいか」という軸をつくることです。それが明確になると、「そのためにはこんなふうに働こう」「こんなふうに人と接したい」など、自分がどうすべきかが分かります。フルラでは、なりたい自分に気付き、それを実現できるようなプログラムを社内のトレーニングにも取り入れています。マンスリーでメール配信を行う社長メッセージでも、数字の話は極力せずに、みんなにとって気付きを促すことができるような内容を心掛けていますね。

――そうした社長の哲学やモノの見方は、どこで培われたものなんでしょうか。

倉田:最初から、人に対して広い視野で接してきたかといえば、決してそんなことはありません。私自身、長年のキャリアの中で「こうでないとダメ」「結果を出さないと」と肩に力が入り、不必要なよろいをたくさん着込んでいたように思います。ですが、いろんな失敗や挫折を経て、自分が目指すもの、本当に大切なものを見つめ直すことができました。
 実はこれまで、行き違いから思いが上司とかみ合わず、2度ほど職を失いかけているんです。でも、きっと自分に足りないところがあるのだろうと、言われたことを真摯に受け止め、懸命にやり続けることで認めてもらうことができました。
 ピンチは、自分を成長させる貴重なチャンスです。視点をそう変えれば、心もラクになるし、前に進む力になりますよね。常にポジティブに考えることで、自分だけでなく周りも幸せにできると思っています。

――「社長になりたい」と考えるようになったのはいつごろでしょうか。

倉田:全く想定外のキャリアパスでした。12年在籍した前職では、マーケティングを統括していましたが、「そろそろ次の学びに進みたい」と考えた時、選択肢は横に広げるか、上を目指すかの二つ。横に広げるとなると、アジアのマーケティングを見るという選択もありましたが、それには心が躍らなかった。とはいえ、「社長はこうでなければ務まらない」と自分の中で勝手に決め込んでいて、そちらへ進むことにもためらいがありました。中村天風さんの本を読んだり、経営者のセミナーに参加したりと、たくさん考え、悩むなか、ある時、「ありのままでいいじゃない」と霧が晴れるような感覚があったんです。完璧ではないけれど、足りない部分はみんなに埋めてもらえればいい、そういう組織をつくればいいんだと考えたら、すごく楽になり、オファーを受ける決心がつきました。4年というと長い時間に感じますが、今考えると、ワインのように熟成させる時間が私には必要だったのだと思います。ただ、実際に社長になってみると、これほどやらされ感がなく、楽しめる仕事はない! と毎日幸せを感じています。

――まさに天職だったわけですね。どうしても、日本の女性は自信がなく、昇進を拒むケースも多い。そんな女性たちにアドバイスを頂けますか。

倉田:女性は責任感が強いのですべてを抱えてしまいがちですよね。でも、周りに頼ることも上司としてのスキルだと思いますよ。私もある時、「社長から頼られたら下はうれしいんです」と言われ、目からうろこが落ちました。部下を頼ることは、部下のモチベーションを上げることにもつながります。
 自分の可能性は周りが決めるものではなくて、自分自身が決めるものだと思うんです。自分らしくありのままで、楽しいことを突き詰めていくと、その先には望んでいるものが必ず待っている。それを知ってほしいし、ぜひ踏み出してほしいです。

「大切なのは『自分がどうありたいか』という軸です」
「大切なのは『自分がどうありたいか』という軸です」

取材/麓幸子(日経BP総研フェロー) 文/西尾英子 撮影/大槻純一