1.2つ上の上司を味方につける

 女性の活躍に対して面白く思わない古いタイプの上司が自分の上にいる場合、自分の意見が通らなかったり、チャンスを与えてくれなかったり、または自分が挙げた成果をその上司に取られそうになったりすることがあります。あなたの上司はいかがですか。そういうときには、その上司のそのまた上の上司――つまり自分より2つ上の上司に、自分の存在を印象づけるとよいということです(外資系企業には、「スキップレベルミーティング」という名前の、直の上司ではなくずっと上の上司との面談の機会もありますが、日本の企業ではそのような制度のある企業はあまり多くないでしょう)。

 映画では、キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)が黒人女性として初めて宇宙特別研究本部に配属されます。直属の上司にはなかなか受け入れてもらえませんが、その上司の上司である本部長(ケビン・コスナー)から実力を認められます。そして、ここぞというときアピールして重要な会議への出席が許可されます。その千載一遇のチャンスを生かし、宇宙飛行士ジョン・グレンからも信頼されるまでになるのです。キャサリンが与えられた現在の職務を全力で遂行したのはもちろんですが、直の上司にも気を配りながら、2つ上の上司にしっかりと自分の存在と実力をアピールする方法が参考になります。

上司の上司である本部のトップ(ケビン・コスナー)からも実力を認められ、信頼を勝ち得ていくキャサリン(タラジ・P・ヘンソン) (C)2016 Twentieth Century Fox
上司の上司である本部のトップ(ケビン・コスナー)からも実力を認められ、信頼を勝ち得ていくキャサリン(タラジ・P・ヘンソン) (C)2016 Twentieth Century Fox

2.相手の価値観を理解した上で交渉する

 技術部の配属が決まったメアリー(ジャネール・モネイ)はエンジニアを志していますが、そのためには白人専用の高校で講座を受ける必要があります。しかし、黒人女性である自分は入学することができません。それでメアリーは裁判所へ請願書を提出するのですが、判事へのアピールの方法が秀逸なのです。熱意を込めて訴えるのは言うまでもありませんが、「私はその学校で学びたい」「入学させてほしい」の自分視点の1点張りの主張では人の心はなかなか動かせません。

 メアリーの賢いところはターゲットである判事の経歴など詳細を調べた上で、彼の価値観や信念の琴線に触れるように交渉します。「私の入学を許可したら、あなたは初めて黒人女性の入学を許可した判事として歴史に名を残します」と、相手視点でのメリットも提供するのです。その結果、彼女は入学を許可され、エンジニアになるための大きなチャンスをつかみます。このような交渉術こそ、女性がもっと学んでもよいものではと思います。

3.主体的にスキルを習得し自分を磨く

 思えば、映画で描かれる60年代も、テクノロジーの進化による変革の時代という点では、今の時代と似ているかもしれません。当時のNASAには優秀な頭脳を持つ黒人女性たちが計算手(人間計算機)として働いていましたが、コンピューターの導入によってその仕事は縮小されて雇用も危うくなっていました。しかし、リーダー格のドロシー(オクタヴィア・スペンサー)は、仲間の女性たちと自主的に最新のコンピューター言語を学び、スキルを身に付けて、新たに導入されたIBMのコンピューターのデータ処理担当に任命されるのです。これこそキャリア自律ですよね。

 誰かに指示されて取り組むのではなく、状況から判断してこれから必要なスキルはコレだと見出し、自ら主体的に学び、時間とお金を投下して自分を磨くこと。若宮さんのキャリアとも重なります。新しくスキルを習得した人たちにとって、新たなテクノロジーは自分の仕事を奪う敵ではなくなります。むしろ新たな自分のキャリアの扉を開いてくれるツールとなるのです。

4.成果は「独り占め」しない。みんなで分かち合う

 さて、ドロシーは、白人の女性上司から異動の打診を受けますが、「仲間と一緒じゃないとダメ」と自分だけが異動することを拒み、仲間の女性たちと一緒にコンピューター室に配属されるように交渉します。それが成功し、みんなで風を切ってコンピューター室に乗り込むシーンは、映画の中でも観ている人の胸をすく圧巻の場面です。

ドロシー(オクタヴィア・スペンサー)たちが風を切って乗り込むシーンは、思わず大きな拍手をしたくなる瞬間 (C)2016 Twentieth Century Fox ■「ドリーム」のデジタル配信は2018年1月17日、ブルーレイ&DVDは2018年2月2日に発売予定
ドロシー(オクタヴィア・スペンサー)たちが風を切って乗り込むシーンは、思わず大きな拍手をしたくなる瞬間 (C)2016 Twentieth Century Fox ■「ドリーム」のデジタル配信は2018年1月17日、ブルーレイ&DVDは2018年2月2日に発売予定

 まさに、ドロシーはリーダーですよね。ビジョンを示し、仲間をまとめ、彼女たちに必要な新たな知識と技能を習得させる。そして、自分の異動をトリガーとして仲間の女性の仕事も確保してしまうタフネゴシエーターぶり。自分だけがよければいい、自分だけが上にのし上がれればいいという「自分ファースト」ではなく、まさに仏教でいうところの「忘己利他」(己を忘れて他を利する)の精神。成果を独り占めせずみんなで分かち合うところにも感動しました。

 まだまだ会社では女性は少数派で各職場に点在しており、孤立感を味わうことも多いのですが、ドロシーたちのように女性たちが連帯し、情報やベストプラクティスを提供し共有し合うことが大きな力になることを教えてくれます。

 これから多くの女性が年末年始の休暇を迎えると思います。慌ただしい日常を少し離れ、宮城教授の「キャリア自律の6つの条件」を考え、年内上映されている「ドリーム」を観つつ新たな時代を切り開いた先達の女性たちの姿からいろいろなことを学ぶのもよいと思います。よいお年をお迎えください!

文/麓幸子 写真/PIXTA