日経ウーマンオンラインが創刊されたのは、今から9年前の2009年9月。当時、私・麓幸子は日経WOMAN編集長と日経ウーマンオンライン編集長を兼務して、この媒体の創刊に携わりました。そして、既にお知らせしているように、来年2月に新たに働く女性向けWebメディア「日経doors」と「日経ARIA」に生まれ変わるため、本日をもって記事更新が終了します。そこでこれまでを振り返りながら、働く女性の皆様に、この媒体での最後のメッセージをお送りしたいと思います。

昇進、異動、転職…さまざまなチャンスを存分に生かす

働く女性の未来はどうなる? (C)PIXTA
働く女性の未来はどうなる? (C)PIXTA

 この9年間での大きな変化の一つは、2016年に女性活躍推進法(以下推進法)ができたことでしょう。私は記者として30年以上、働く女性とそれを取り巻く環境を見続けてきましたが、直近のこの9年は過去のどの時代よりも働く女性の環境が大きく変わったと思います。政府は、女性の活躍を成長戦略の重要な柱と位置付け、推進法をつくり、企業に女性活躍を迫りました。この法律は、301人以上の会社に、女性活躍の数値目標を立てることとそれをどのように達成するか行動計画を作り、公表することを義務付けています。その結果、301人以上の会社の99.1%に当たる1万6315社がそれを実行しています。努力義務である300人以下の会社も5093社が対応しています(18年9月末現在)。つまり、全国で2万1408社が、女性活躍にコミットし、それに対して目標と行動計画を社内外に公表しているのです。このような光景は、推進法施行前はありませんでした。

 私は企業のトップや人事担当役員に取材する機会が多いのですが、彼らは口をそろえて「優秀な女性たちを登用したい」「女性管理職をもっと増やしたい」と言います。このようなことは、過去30年なかった、いや30年どころか、働く女性にとって(ちょっと大げさですが)有史以来初めてのこと。ですから、女性の皆さんにお伝えしたいのは、今は千載一遇のチャンス! ということです。かつてなかったチャンスをフルに生かして存分に自分のキャリアを伸ばしていただきたいのです。

 チャンスはずっとあるものではありません。チャンスには期限があるのです(推進法も10年の時限立法です)。この記事を読んでいる意欲的な女性の皆さんには、きっと昇進や新たな職務、また転職や起業など実にさまざまなチャンスが訪れるでしょう。その好機を逃さずにその手でグッとつかみ、思う存分に生かしていただきたいと思うのです。

 でも、女性は得てして控えめです。そのようなチャンスを前にして、「自信がない」「私にできるのか」と思い、臆してしまいがちです。でも大丈夫です。あなたならできます。

 女性は自分の能力を低く見積もり過ぎます(反対に男性は自分の力を高く見積もり過ぎる傾向があるかもしれません)。あなたの前に来たチャンスは、あなたが自分の力で獲得した正当なものです。あなたには十分それをやりこなせる力があるのです。ですから、それをきちんと生かしましょう。例えば、昇進のオファーが来たら、受けましょう。女性管理職を増やしたいと思う会社のために? いえ、違います。あなたのキャリアとこれからの人生のためにです。あなたが勇気を出してそのチャンスを受ければ、さまざまな新しい景色が見えてきて、新たな自分の可能性に気付くでしょう。

変わる組織のマジョリティー、働き方改革が女性活躍の追い風に

 日本はこれまで女性が活躍しにくい国でした。それは、この度発表された世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」で、世界で110位にとどまっていることからも明らかでしょう。女性管理職登用も世界に比べて遅れています。その一つの要因は、専業主婦のいる男性を前提として企業活動も組織マネジメントもしてきたからです。専業主婦に家事、育児、介護など私的なことを全部任せて時間制約・制限なく仕事にまい進できた、残業し放題の男性をデフォルトとしてきました。だから、家事育児の責任が生じがちな女性はそこから排除されてきたのです。しかし、この仕組みも変わろうとしています。

 なぜなら、組織にいる人たちが変わったからです。かつて昭和の時代では、時間制約のない男性がマジョリティーでした。でも、今は違います。多くの人が時間制約を抱えて働いています。今、共働き世帯は1188万世帯となり、男性のみが働く片働き世帯より547万世帯も多くなりました(2017年)。若い共働き世帯にとっては家事も育児もシェアをするのが当たり前です。一方、2025年には日本は高齢化率30%になり、今後シニア世代では介護と仕事の両立に悩む人たちが大幅に増えるでしょう。また、私自身50歳で夜間大学院に入学しましたが、学びと仕事を両立したいと思う人たちも多くなるでしょう。つまり何らかの事情で時間制約が生じがちな人が組織の多数派になるのです(私はこれを日経ビジネス誌上で「新しいマジョリティー」と名付けました)。

 女性活躍の追い風となるのが、働き方改革です。今年、働き方改革関連法が成立し、2019年には、日本の労働法制で初めて残業時間の上限規制が導入されます。「長時間労働が美徳」「残業が当たり前」から「生産性高く働くことが大事」「定時退社が基本」へと価値観が変われば、もっと働きやすい社会となり、女性たちが活躍する領域も増えるでしょう(なお、この働き方改革の起点となったのは、3年前の今日、過労自殺した高橋まつりさんです。この9年間で最も痛ましいこの出来事を深く胸に刻みたいと思います)。

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