彼から飲酒を奪うとはどういうことなのか

 話が少し逸れてしまいましたが、要するに彼の飲酒を欠点と見なしてしまうのは、それを「迷惑」や「心配」という観点からしか見ていないからではないか、ということです。

 確かに支離滅裂なメールが来たら怖いし、会っているときにぶっ倒れられたら心配にもなります。健康は大丈夫か、酔って警察沙汰になるようなことはしないか、お金は大丈夫なのか……といろいろ不安になるし、泥酔した人はコミュニケーションが取れないし、ましてや彼は男性なので、いくら心配しても「ごめん! でも大丈夫だから」の一点張りという可能性もある。未来さんが不安になるのも当然です。

 しかし、視点を彼の側に置いてみると、お酒をそこまで飲んでしまうのにも、彼なりの事情があるはずだという発想が出てきます。本当に依存症のような状態という可能性もありますが、その背景には孤独やトラウマを抱えている可能性だってあるし、単にお酒の場が好きで飲んでる可能性もあるし、飲むと調子に乗っちゃうタイプという可能性もあります。おそらく、深く飲酒する背景にはいろんな事情が混在しているのでしょう。

 我々はアルコール中毒の専門家ではないので、ここで彼の状態を診断することはできません。しかし、少なくとも、彼にとって飲酒はオプションのように着脱可能な要素ではなく、彼という人間を構成する一部分であることは確かです。

 未来さんは彼を「理想的な男性」と言っていましたが、それはつまり「(お酒以外は条件的に)理想的な男性」ということです。しかし彼から飲酒を引くことは、同時に楽しみや命綱を奪う行為になる可能性がある。これは彼の実存に関わる重大な問題です。

 未来さんが直面しているのは、その上で彼と付き合うかどうかを判断するという状況だと考えられます。

「飲酒は彼の一部」と考えてみると…
「飲酒は彼の一部」と考えてみると…