睡眠負債がたまると、認知症やガン、生活習慣病のリスクが高くなる

 適正な睡眠時間が7時間の人が、平日に6時間しか眠れていないと、平日5日で「5時間の睡眠の負債を抱える」というのが、最近話題になっている睡眠負債の考え方。

 厚生労働省発表の平成27年(2015年)「国民健康・栄養調査」によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は、日本人の成人女性で34.2%。平成19年(2007年)以降増えています。睡眠を時間の長さで捉えなくてもいいとはいえ、6時間を切ると日中の集中力・判断力低下など脳機能の低下や免疫力の低下、鬱や認知症のリスクも上がるそう。

 「日中にたまった睡眠物質のプロスタグランジンD2(※編集部注:「2」は下付)を寝ている間に分解していますが、睡眠時間が足りず分解し切れなかった睡眠物質が蓄積されると、認知症の原因物質でもある異常細胞のアミロイドβに変わり、脳の神経細胞を死滅させます。若いうちはすぐに弊害が起きませんが、35歳過ぎから認知症や鬱、五大生活習慣病のリスクが高くなります」(菅原さん)

 睡眠不足は美容に悪いだけでなく、将来の健康を脅かすことになるということを頭に入れておきましょう。

週末の寝だめはOK? 寝不足解消は10分でもいいので積み上げて

 平⽇は自分の適正な睡眠時間に⾜りていないという人は、休⽇を利⽤して睡眠不⾜を補うのがおすすめです。

 「睡眠負債をためずに生活できれば理想的ですが、まずは最低6時間睡眠を死守して。平日は昼休みに目を閉じて脳を休めて乗り切り、休日は早寝遅起きで平日のリズムと極端にズレないようにしながら不足分を補いましょう」(三橋さん)

 また、平日でも、早く帰宅できる日は、10分でも15分でも睡眠を積み上げることが大切だと菅原さん。

 「不足している睡眠を補うには、10分、15分でもいいので、早寝をして睡眠時間をコツコツ積み上げて、睡眠の絶対量を増やすこと。15分早寝をすると、1カ月で7.5時間を稼げる計算です。睡眠を1日単位で考えず、月・年単位の絶対量で捉えましょう」(菅原さん)

 私たちは、規則正しい生活=就寝時間を一定にすると考えがちですが、起床時間が一定であれば、早く寝る分には、眠りのリズムに影響しないそうです。

 次回は、「夏の快眠」についてお届けします。

この人に聞きました
三橋美穂
快眠セラピスト
三橋美穂さん
寝具メーカーで商品開発や枕のアドバイザー育成などに携わった後に独立。全国での講演や執筆活動を通して、眠りの大切さや快眠の工夫を提案。著書に『驚くほど眠りの質がよくなる 睡眠メソッド100』(かんき出版)など。

菅原洋平
作業療法士
菅原洋平さん
民間病院の精神科勤務後、国立病院機構で脳のリハビリテーションに従事。現在、東京・千代田区のベスリクリニックで睡眠外来を担当。「アクティブスリープ指導士養成講座」を主宰している。
特集「仕事がはかどる睡眠術」目次
(1)睡眠は時間より質が大事? 眠りの常識ウソ・ホント(この記事)
(2)夏の快眠ワザ6つ エアコンはつけっ放しにしてOK?(8月11日公開)
(3)美容、学習、減量…寝ながらできる、最強の「ながら」作業(8月22日公開)
(4)仕事の生産性を上げるための戦略的睡眠のススメ(8月25日公開)
(5)「眠れない!」から脱却しよう タイプ別・不眠解消法(8月29日公開)
(6)アンケートで分かった! 読者の睡眠のリアル(8月31日公開)

聞き手・文/中島夕子 イラスト/森のくじら