処方箋その2・成長曲線で、体重の急増と成長障害を早期発見

 「二つ目に重要なのは、身長と体重、更にBMIの2種類の成長曲線チャートを付けて、身長や体重が標準の成長曲線の範囲内にあり、かつ、各パーセンタイル曲線の範囲内から大きく外れていないか、チェックすることです。小さく生まれた赤ちゃんの場合、急激に体重が増えると生活習慣病になるリスクが高まります。逆に体重の増え方が少ない場合も注意が必要です。それらが成長曲線チャートを利用することで早く見つけられ、早め早めに対応できるようになるのです。乳幼児健診、学校健診のたびに身長と体重を成長曲線チャートに記入して、チェックしていくことです。体重・身長発育が各パーセンタイル範囲内を上回って大きくなったり、下回ったりする場合は小児科を受診することをおすすめします」

身長・体重のパーセンタイル成長曲線。男女別にあり、0~6歳用と0~18歳用がある(図は女子の0~18歳用)。色の付いた範囲内で、かつ、各パーセンタイル曲線の範囲を超えて大きく変化していないかをチェックするのがポイント
身長・体重のパーセンタイル成長曲線。男女別にあり、0~6歳用と0~18歳用がある(図は女子の0~18歳用)。色の付いた範囲内で、かつ、各パーセンタイル曲線の範囲を超えて大きく変化していないかをチェックするのがポイント
◆成長曲線のシート
個人で使用の場合は日本小児内分泌学会のサイトからダウンロードできる。

 一方、小さく生まれた場合、身長が順調に発育していかず、身長が低くなる可能性もある。

 「低身長の場合には、多くが治療可能です。身長発育曲線チャートを付けて、身長の伸びが必ずしも順調でない場合には成長障害の可能性があるので、早めに小児科を受診し、必要な場合小児内分泌の専門医を紹介してもらうとよいでしょう。また、思春期に見られることが多い体重増加の停止や減少を起こす摂食障害の早期発見にも有効です。これらはいずれも早期に診断して治療することが大事です」

 なお日本小児内分泌学会の専門医が成長障害の治療を行っている医療機関は、同学会のサイトで確認できる。これらの兆候を早く見つけるために、高校を卒業するまでは検診・学校での身体測定データを成長曲線チャートに付けていくとよい。

◆成長障害の治療を行っている医療機関
日本小児内分泌学会のサイトで確認できる。

 ただし、小さく生まれたからといって、早く大きくしようと焦ってたくさんミルクを飲ませたりして、急激に太らせるのはよいことではない。

 「急激に体重が増えるのは、骨や筋肉ではなく体脂肪が急に増えているためであり、将来は肥満になり、生活習慣病になるリスクが高まります。かつてよく言われた『小さく産んで大きく育てる』は、望ましいことではないのです。身長・体重の成長曲線、BMI(Body Mass Index)の経過を見て、発育経過がチャートの各パーセンタイル内に収まっている場合はまず問題ないと思われます。しかしそれ以上のパーセンタイル域に推移して発育していくなど、大きな変化があった場合は、急激な体重増加の可能性があります。BMIの推移をプロットするとそれがより明確に分かりやすくなります」と福岡さん。

香川県の三豊・観音寺市では、小児生活習慣病対策として母子手帳に続いて身体健康状況を記入していく「Myカルテ」手帳を作成し、妊娠届出時に全員に配布している。この手帳ではBMIチャートの利用法が説明されており、理解しやすい。BMIの値をプロットしていくと、急激な体重増加がある場合には、その変化がより明確に現れて気付きやすい。その場合には小児科を受診するとよい (出典:三豊・観音寺市「Myカルテ」より引用)
香川県の三豊・観音寺市では、小児生活習慣病対策として母子手帳に続いて身体健康状況を記入していく「Myカルテ」手帳を作成し、妊娠届出時に全員に配布している。この手帳ではBMIチャートの利用法が説明されており、理解しやすい。BMIの値をプロットしていくと、急激な体重増加がある場合には、その変化がより明確に現れて気付きやすい。その場合には小児科を受診するとよい (出典:三豊・観音寺市「Myカルテ」より引用)

「脂肪リバウンド」をチェックする

 子どものBMIは、生まれた直後に急激に上昇して、その後低下し、再び上昇していく。この、低下して再び上昇する現象を「脂肪リバウンド」といい、この上昇に転ずる年齢を「脂肪リバウンド年齢」と呼ぶ。脂肪リバウンド年齢が6~8歳である子どもは肥満になりにくいことが分かっている。

身長・体重から計算したBMIの推移を示す成長曲線からは、リバウンド年齢が分かる(出典:三豊・観音寺市「Myカルテ」)
身長・体重から計算したBMIの推移を示す成長曲線からは、リバウンド年齢が分かる(出典:三豊・観音寺市「Myカルテ」)

 一方でその時期が早くなるほど、肥満や生活習慣病のリスクが高くなる。また小さく生まれた場合や大きく生まれた場合にはこの時期が早くなる傾向があるという。

 「脂肪リバウンド年齢がより早くなると、将来肥満になるリスクが高まりますが、特に女の子の場合は体脂肪の増加に続いて初潮年齢が早くなり、身長の伸びが止まる可能性も高くなります。その意味からも、BMIをプロットして脂肪リバウンド年齢をチェックするのは子どもの成長発育の望ましくない急激な変化を早く見つけるために重要です」

 福岡さんによると、母乳育児には脂肪リバウンド年齢を遅くする効果があるそうだ。

処方箋その3・幼い時から積極的に体を動かす習慣を

 さらに、福岡さんは、小さく生まれた子どもには、意識的に運動習慣を付けてあげてほしいとアドバイスする。「小さく生まれた赤ちゃんは、省エネというか、少ないエネルギーを効率的に使うために体を動かさない傾向があります。正常体重で生まれた子に比べて運動嫌いの傾向があります。幼いうちから親子で公園の遊具やボールを使って一緒に遊ぶなど、積極的に体を動かす習慣を付けるようにすることも大切です」(福岡さん)。

 生活習慣病の予防には、十分な睡眠、規則正しくバランスの取れた食事も重要とされる。

 「赤ちゃんが小さく生まれても深刻に考え過ぎることはよくありません。低出生体重児の病気リスクを下げる薬剤の開発も積極的に行われています。また小さく生まれると生活習慣病になりやすいことを知っておけば、いつも体に気を付けて健康管理をするので、健康を維持することができます。まさにそれは転ばぬ先の杖を持つ(身に付ける)ことになると言えます。小さく生まれても、これは『一病息災』と考えて、親子で生活習慣病の予防に取り組んでください」(福岡さん)。

Profile
この人に聞きました
福岡秀興さん
福島県立医科大学特任教授。早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構規範科学総合研究所招聘研究員、千葉大学医学部客員教授。日本DOHaD学会代表幹事。米国ワシントン大学留学、香川医科大学講師、東京大学大学院助教授、早稲田大学理工学術院総合研究所研究院教授などを経て、2018年より現職。日本のDOHaD研究の第一人者として、妊娠中や思春期、乳幼児期の食の問題に取り組む。

文/福島安紀 イメージ写真/PIXTA

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将来、赤ちゃんが欲しいと思っている人に、「転ばぬ先の杖」として知っておいてほしい大切な情報を伝え、若い女性の栄養問題など、現状の問題点を解決する方法を提案していくプロジェクトです。

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