痩せ過ぎ女性が妊娠したとき、理想的な体重増加量は12kg以上

――小さく生まれる赤ちゃんが多い背景には、日本人女性の痩せ指向があるといわれます。国民健康・栄養調査(2017年)によると、20歳代の女性の21.7%、30歳代の女性の13.4%が痩せ過ぎ(BMIが18.5kg/m2未満)です。お母さんが痩せ過ぎだと、小さい赤ちゃんが生まれやすいのでしょうか。

森崎さん もともと痩せていたとしても、妊娠中にしっかり栄養を取って体重を増やせば、適切な体重の赤ちゃんが生まれる確率は高まります。私たちが日本産科婦人科学会周産期登録データベース(2005~11年)を用いて10万4070人の妊婦さんのデータを解析した結果(*1)では、痩せ過ぎの妊婦さんの理想的な体重増加量は12.2kgでした。

 厚生労働省が「健やか親子21」(2009年)で推奨している妊娠中の体重増加推奨量(9~12kg)を基に増加体重を9~10kgに抑えたら、適切体重の赤ちゃんを産むには体重増加が少ない可能性があるのです。理想的な体重増加量は、低出生体重児や巨大児(4000g超)の出産、早産、帝王切開などの分娩困難、妊娠高血圧腎症など複合的なリスクが最も低くなった数値です。これも前述のデータベースから算出しました(*1)

 妊娠前にBMIが18.5kg/m2未満の女性たちは、恐らく、ダイエットや体重制限が得意な人たちですから、妊娠中の体重増加推奨量が9~12kgと指導されると、下限の9kgを目指す可能性があります。でもそこまで抑えてしまうと、もともと痩せていますから、早産になったり低出生体重児を出産したりするリスクが高まることもあり得ます。もっと体重を増やしたほうがよいのです。

低出生体重児が多い一因は妊娠中の過度な体重制限

森崎さん 日本人の女性は、妊娠中の体重増加推奨量を厳格に守る傾向があります。ハーバード大学の研究グループと協力して、米国で2009~12年に生まれた1063万8415人(両親が日本人の赤ちゃん6171人を含む)の母親の妊娠前の体格と出生体重を分析したところ、興味深いことが分かりました。

 最も平均出生体重が少なかったのが日本人の赤ちゃん(3093g)で、最も大きかったのはサモア人の赤ちゃん(3507g)でした。日本人以外の妊婦さんの体格(BMI)別の体重増加量は、日本人と体格が似ているベトナム人や韓国人を含めてほぼ同じだったのに対し、日本人の痩せ型(BMI18.5kg/m2未満)と標準体形(BMI18.5~24.9kg/m2)の妊婦さんの体重増加量は明らかに少なく、赤ちゃんも小さく生まれていたのです。

出生票情報を解析し、2009-2012年に米国で生まれた1063万8415児の人種別の平均出生体重を比較
出生票情報を解析し、2009-2012年に米国で生まれた1063万8415児の人種別の平均出生体重を比較
母親の人種・体格別の妊娠中平均体重増加量。日本人の痩せ型、標準体形の妊婦は、米国で出産時にも厳格に体重制限をしていた。(データ:Sci Rep. 2017 Apr 21;7:46657.)
母親の人種・体格別の妊娠中平均体重増加量。日本人の痩せ型、標準体形の妊婦は、米国で出産時にも厳格に体重制限をしていた。(データ:Sci Rep. 2017 Apr 21;7:46657.)

 さらに、日本人女性と白人女性の赤ちゃんだけを比較し、父親の人種を考慮して分析したところ、赤ちゃんの出生体重の差はお母さんの体格と妊娠中の体重増加量が影響していることが分かりました。

 つまり、日本人の赤ちゃんに小さい傾向があるのは、人種や遺伝的な要因ではないということです。日本人の妊婦さんの体格が大きくなり、特に痩せ型や標準体形の妊婦さんの妊娠中の体重が増えれば、赤ちゃんの出生体重も大きくなると予想されます。