チェック項目・その3 甲状腺機能

定期健診項目に入っていないがチェックは不可欠

 3つ目は「甲状腺機能」だ。荒田さんによると、「甲状腺の異常は若い女性に多く、妊娠に関係する病気であるにもかかわらず、甲状腺ホルモンの検査は一般的な健康診断の血液検査に含まれていないことがほとんど」という。また健診をしたとしても「そもそも妊娠に影響することが医師の間で広く知られていないため、異常値であっても適切な管理をされないことも多い」(荒田さん)。

 のどぼとけの下にある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、全身の新陳代謝を活発にする働きがある。そのため、過剰につくられたり(機能亢進・こうしん)、量が不足したり(機能低下)すると、だるさ、汗、動悸、うつなど多様な不調を引き起こす。甲状腺機能亢進症の代表的な病気がバセドウ病、甲状腺機能低下症の代表は橋本病だ。

 実は、このホルモンは妊娠の維持や胎児の成長にも関わる。多過ぎても、少なくても、不妊の原因や流・早産、妊娠高血圧症候群などの原因になることがあるため、機能異常がある場合は妊娠前から投薬でコントロールすることが望ましいのだ。

バセドウ病や橋本病の血縁者がいたら検査を

 「軽い甲状腺機能低下の『潜在性機能低下症』は一般的には治療の対象ではありません。しかし流産の原因の一つになるため、妊娠を考えるときに初めて治療をする必要が出てきます。自覚症状がないため自分がそうとは分からないので、叔母などを含む血縁者に橋本病やバセドウ病の人がいて妊娠を希望するなら、ぜひ甲状腺ホルモンの検査をしておいてほしい。基準値は測定会社によって異なりますが、甲状腺刺激ホルモンが上限を超えた場合は、甲状腺に詳しい専門医のいる施設の受診をおすすめします」(荒田さん)。

●甲状腺ホルモン検査で「要対策」のケース
FT4(遊離サイロキシン)の値は正常だが、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値は基準値上限を越えている

妊活は、今の健康状態と家族の病歴を知ることから

 このように、妊娠希望者は普通の人より厳しい健康管理が必要だ。健診の結果がここに示した「妊活用の数値」でチェックして問題がない人でも、家族に病歴を持つ人がいたら、自分もリスクが高いかもと用心して生活習慣を見直し、定期的に健診を受けて早期対処に努めることが大切だ。

 「日本では1980年ごろから低出生体重児(2500g未満で生まれた赤ちゃん)が増えていますが、最近、その子たちが妊娠世代になっています。実は低出生体重児で生まれた女性が妊娠すると、排卵障害、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群、早産などのリスクが高まることも分かってきています。そのような女性のケアも今後の課題」と荒田さん。自身の出生体重が2500g未満だった人は、妊娠、出産のリスクが高まる可能性があることも知って、しっかり予防に努めたい。

 荒田さんが担当する国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の「プレコンセプションケアセンター」は、妊娠、出産に関係するトータルな健康状態のチェック、食生活のアドバイスを国内で先駆的に始めた施設。最近は「プレコンセプションケア」を実施するクリニックも出てきている。妊娠に向けて自分の体とケアの方法を知りたい人は一度受診してみては。

文/茂木奈穂子 イメージ写真/PIXTA

この人に聞きました
荒田尚子さん
国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 母性内科 医長
広島大学医学部卒業。内分泌・代謝学(特に妊娠に関連した糖尿病、甲状腺領域)が専門。慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科助手、横浜市立市民病院勤務、米国マウントサイナイ医科大学留学を経て、2010年より現職。2015年、同センターに日本で初めて設立された「プレコンセプションケアセンター」の担当医も務める。

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