妊活中に赤ちゃんのために心掛けたい食生活とは?

――腸内細菌叢は食べる物によっても変わりますよね。日常的に心掛けたほうがいいことはどんなことですか。

永田さん 私は、腸内細菌叢の多様性、つまりさまざまな種類の腸内細菌がすむ腸をつくることが大事だと考えています。そのためには、多種多様な腸内細菌のエサを供給する必要があり、方策となるのが、多種多様な食べ物を取ることです。

 妊娠中は特につわりがつらかったり、体調が優れないことなどによって、「これならば食べられる」と特定の食品に偏った食生活になりがちです。しかし、食生活の偏りは腸内細菌叢の多様性を損なう食べ方といえるでしょう。腸内細菌叢は、食生活を変えれば2週間程度で変化することが分かっています。2週間で良くも悪くも変わる、とすれば、いつになっても遅くはないので、多様性が広がるよう、いろいろな食べ物を満遍なく取ることを心掛けていただきたいです。

――特に意識して取りたい食べ物はありますか。

永田さん 精製度の低い穀物や、野菜の食物繊維、豆、海藻など幅広い食材を取ることがいいでしょう。腸内細菌のエサとなる水溶性食物繊維を多く含む食材はあまりないので(海草、大麦、ゴボウなど)、意識して取ることも重要です。これらを無理なく、満遍なく取ることができるのは和食。ただし、和食は塩分が多くなりがちなのでその点に注意が必要です。だしのうまみやスパイス類などを上手に使って、塩分を減らすような工夫をしてください。

食生活も大切です イラスト/もり谷ゆみ
食生活も大切です イラスト/もり谷ゆみ

――ビフィズス菌、乳酸菌といった菌を取る「プロバイオティクス」もいいですか?

永田さん プロバイオティクスとして売られている有用菌は、腸には定着せず、腸を通り抜ける「通過菌」ですが、通過しながら効果を及ぼすことが知られています。科学的な根拠のあるプロバイオティクスをきちんと選んで、それを継続して取り続けると母体の腸内細菌叢のバランス維持に働くでしょう。そして、いろいろな食材を満遍なく取り、栄養素が偏らないようにする、ということが腸内細菌の多様性へとつながります。

 なお、忙しい女性の中には、あらかじめよく洗浄されたレディートゥーイートのサラダをよく食べておられる方がいると思います。このような食品の中には、衛生面にあまりにも気を使うばかりに洗浄し過ぎて、せっかくのビタミン類が洗い流されて不足してしまっているものもあると聞きます。日本人の妊婦さんは野菜をよく取るのに、妊娠期に必要な葉酸は諸外国より不足しているといわれていますが、このようなことが原因かもしれません。時には、ご自分で野菜を買って洗って食べたほうがよいでしょう。

――お話を伺って、お母さんが自らの腸内細菌叢を整えていくことで赤ちゃんの健康に寄与できるということに、希望が持てました。

永田さん 赤ちゃんの腸内細菌叢を育むための理想形は、確かに、経膣分娩、母乳育児ですが、やむを得ず帝王切開になったり、母乳育児が難しくて人工乳で育てる場合も多いのが現実です。しかし、妊娠前から赤ちゃんの健康のためにできることはたくさんあるのです。

 また、生後6カ月くらいまでは、赤ちゃんは母乳や人工乳からしか栄養を得ませんが、生後6カ月以降、離乳食を食べ始める時期になると、赤ちゃんの腸内細菌叢はダイナミックに変化し成熟していきます。離乳食はもちろん、子育て期を通して、繊維質の多い食事も念頭に置いて、偏りのない幅広い食品に親しませてあげるといいと思います。

 「栄養素が偏らない」ことが、「多様性のある菌を育てる」ことにもつながります。自分のためにも赤ちゃんの健康のためにも、多様な食品を取り、縁の下の力持ちである腸内細菌叢の多様性を育んでください。


この人に聞きました
永田智さん
東京女子医科大学小児科教授・講座主任
87年、順天堂大学医学部卒業、92年同大学大学院医学研究科修了。90年、英国クイーンエリザベス小児病院研究員、95年、英国ロンドン大学大学院博士課程を修了。順天堂大学医学部小児科講師、同大学大学院プロバイオティクス研究講座先任准教授を経て2013年から現職。日本小児科学会理事、専門医、日本アレルギー学会専門医。免疫、アレルギー、栄養、消化器、腸内細菌学を専門とし、研究する。

文/柳本 操 イラスト/もり谷ゆみ

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