周囲の応援と協力に支えられて、起業準備

 パンプスを作ることを決心したとはいえ、靴作りに関しての知識は全くなかったという西山さん。ゼロからのスタートを切るに当たって、不安や戸惑いはなかったのでしょうか。

 「もちろん不安はありましたが、信頼している上司や仕事関係者の方に相談すると、皆さん『面白いね。やってみるといいよ』と言ってくださって。『止められるかな……』と思っていたのに、逆に応援してくれて、協力してくれる方まで現れたので、『よし! じゃあやってみよう。一人じゃないなら何とかなるだろう』と思えたんです。

「足に痛みがある人でも履きやすく、キレイ目スタイルにも合う上品な素材『シープスエード』を使用しています」 写真/稲垣純也
「足に痛みがある人でも履きやすく、キレイ目スタイルにも合う上品な素材『シープスエード』を使用しています」 写真/稲垣純也

 それに、私はもともと『組織』の中で働くことに対して、ずっと苦手意識がありました。周りに合わせて、必要以上に自分を抑えてしまうので、それが精神的な負担になっていたというか……。だから起業する前から、何となくではあるんですが、『私が幸せに生きていくためには、自分で何かをしたほうがいいんだろうな。そうしないと、どこにいてもずっと苦しいままなんだろうな』と思っていました。

 振り返ってみると、自分を抑えて組織で働くことの苦しさと、合わない靴を履き続けることで生じた足の痛みのピークが重なったときに、『起業してパンプスを作ろう』という決心が固まったようにも思います」

働きながらの準備は「時間」と「体力」の勝負

 そしていよいよ、パンプスを作るために行動し始めた西山さん。まずは「どうやって靴を作るのか」というところから調べ始め、OEM(他社ブランドの製品を製造すること)を請け負っているメーカーに話を聞きに行ったりしながら、一つ一つ、できることから進めていったそうです。

 「本当に運が良かったと思うのですが、アポを取って訪問した会社の担当の方が、たまたま外反母趾と幅広の足で悩んでいる女性だったんです。だから『ぜひ一緒にやってみたい』と言ってくださり、製造を請け負ってもらえることになりました」

 運良くOEM先と出合えたことで、パンプス作りは大きく前進。しかし、働きながら起業準備を進めていたこともあり、時間のやりくりには苦労したといいます。

 「夜遅くに打ち合わせをしたり、仕事後に急いで待ち合わせ場所に向かったり……。時間的にも体力的にも厳しかったですが、OEM先の協力とサポートのおかげで、何とか乗り切ることができました。

 また、トライベッカのパンプスは、インソールに細かなパーツを入れて履き心地を良くしているのですが、このパーツの位置を、工場で正しく配置するのが難しいという問題もありました。

履き心地のよさは、このインソールに入れた細かなパーツ 写真/稲垣純也
履き心地のよさは、このインソールに入れた細かなパーツ 写真/稲垣純也
より多くの「足の悩みをもつ人」に届けるため、インターネットでの販売を選択 写真/稲垣純也
より多くの「足の悩みをもつ人」に届けるため、インターネットでの販売を選択 写真/稲垣純也

 でもこのインソールは、香川整歩院の香川英樹院長が、解剖学に基づいて独自に設計してくださったものです。決められた位置にパーツを配置しないと、このパンプスを作る意味自体がなくなってしまうので、その点は工場の方々とよく話し合い、誠心誠意お願いをして、品質を確保した上で製造してもらうように交渉しました」

 インソールの監修をした香川院長は、西山さんが出会った専門家の中で、初めて「パンプスを履くことを否定しなかった人」なのだそうです。

 「香川院長は、『履きたいものを履けばいい。足が痛いなら、私が何とかしましょう』と、私の質問に正面から答えてくれた唯一の先生でした。香川院長の協力がなければパンプスは完成していなかったので、本当に人との出会いに恵まれている、助けられているなと思います」