周囲からの「誤解」で、さらに悩みが深くなっていく

 一方、サイズの合わない服を着ていると、「意図せず周囲から誤解されることもある」と、黒澤さんは言います。

 「例えば、私は体はMサイズですが、胸のサイズに合わせると、XLサイズの洋服を選ぶことになります。でも、XLサイズの洋服を着ると、肩回りや胴回り、着丈などが大き過ぎて、とても太って見える。

 本当は標準体形なのに、胸以外の部分がブカブカな服を着ることによって、太って見えてしまう。胸が大きいことと太っていることは全く別の指標なのに、『胸が大きい=太っている』と勘違いされてしまう。これは女性にとって、とてもつらいことです。

 だから、『太って見えるよりはいいかな』と思って、今度は体に合わせてMサイズの服を選ぶと、また別の問題に直面することになります。

 例えば、シャツのボタンがはじけてしまったり、ボタンの隙間から下着が見えてしまったり。結果的に胸が強調されるシルエットになることで、周囲から『あえて胸をアピールしている』と勘違いされることもあります。

 このように、どちらを選んでも何かを妥協しなければならなくて、さらに周囲から誤解されることによって、どんどん悩みが深くなっていくんです」

似合う服が見つからず悩んでいた頃は、「自分が太っているからサイズが合わないのかな」と思い、太ってないにもかかわらず、ダイエットをしたりもしたそう 写真/洞澤 佐智子
似合う服が見つからず悩んでいた頃は、「自分が太っているからサイズが合わないのかな」と思い、太ってないにもかかわらず、ダイエットをしたりもしたそう 写真/洞澤 佐智子

 胸が大きいこと自体は、その女性のチャームポイントの一つ。でも、自分に合うサイズの服がないために、思いがけない誤解が生じ、そのことで傷ついてしまう――。こうしてじっくり話を聞いてみると、胸の大きな女性が、どれだけやり場のない気持ちを抱えているかが分かります。

 「ハートクローゼットの服は、胸を隠すためのものではありません。オシャレを楽しむための服です。胸を隠すかどうかは、それぞれの女性の選択。望んで選択したことであれば、どちらを選んでもいいと思います。ただ、選択肢がないためにオシャレを楽しめなかったり、仕事などでTPOに合わせた服を着れないことによって、誤解されたり傷ついたりする状況はなくしていきたいんです。

 私はハートクローゼットを立ち上げる前、26・27歳の頃に、ゲーム関連のグラフィック制作会社を起業したのですが、会社の代表としてオフィシャルな場に出掛ける際にも、TPOに合う服が見つからず苦労しました。

 20代前半であれば、少しくらいTPOに合わない服を着ていても許されるかもしれませんが、20代後半になると、そうはいきません。『信頼』という観点から考えても、TPOに合う服は必要になってきます。

 こうしたことが重なって、『だったら自分で胸が大きい人のための服を作ってみよう』と思うようになったんです」

 そして黒澤さんは、2015年12月に新会社を設立。「胸のサイズで服を選ぶ」という、画期的なアパレルブランドを立ち上げました。