見る側が寛容になったほうがいい表現文化が生まれるかも

 このオカモトのWEBムービーを見て思い出したのは、2013年にヴァージン・アメリカ航空がリリースし、大評判となった機内セーフティービデオ。飛行機に搭乗すると必ず離陸前に鑑賞させられる非常時の注意などの無味乾燥なビデオを、人気海外ドラマ「グリー」を連想させるアップテンポなミュージカル仕立てにし、現在までにYouTubeで1250万回以上も再生されています(記事末リンク参照)。

 これだって、「修道女からスマホを乱暴に取り上げてる!」「アジア系の幼女にラップを歌わせ、踊らせてる!」「黒人のキャビンアテンダントに……」(以下略)と、いちいち取り上げて「偏見だ!」「問題だ!」と言いたければ言える。でもそんな気が起きないのは、全員がプロフェッショナルで、真剣で、スキルも高く、乗客みんながワクワクする空の旅を安全に過ごすためのハッピーな表現だからです。

 こういったCM制作の遊び心が許され、楽しまれ、普及して高く評価されるのは、見る側の社会が既にさまざまな米国的PC(Political Correctness:政治的な正しさ)議論を経て、自分たちの表現方法にも鑑賞するリテラシーにも自信を持ち、したがって寛容だから。つまり、自信がある表現者も、自信がある観客も、共に寛容になれるのです。

 CM炎上を繰り返す、日本の広告文化の現在。こういった時期を経て広告の作り手も受け手も鍛えられ、いつか共に自信を手にできたなら、高度で味わい深くポジティブな評価を受けるCMがいくつも生まれ、「2010年代って、やたらCMが炎上する嫌な風潮があったよねぇ」と振り返る日が来るのかもしれません。

【参考】
■【動画】コンドーム装着スキルを鍛える「コンドームトレーニングキャンプ 」が誕生!
■LOVERS研究所 若者のコンドーム着用率向上を目指す。コンドーム熟練度向上プロジェクト
■【動画】Virgin America Safety Video #VXsafetydance

文/河崎 環