炎上を味方に付けたCMの例

 まさにその矢口真里さんが出演し、炎上して取り下げとなったCMが2016年にありました。日清カップヌードルの「OBAKA’s UNIVERSITY」シリーズ第1弾、ビートたけしさんが学長を務める同校で「危機管理の権威 心理学部・矢口真里准教授」として登場した矢口さんが「二兎を追う者は一兎をも得ず!」と宣言するシーンに「こんなやつを起用するなんて!」「何が『危機管理』なのか。開き直りを促進させるつもりか!」と激しい批判が起きたのです。

 そのCMを「矢口真里の『みそぎ』完了か」と好意的に捉えた人々もいたものの、「まだ完了していない」と捉えていた人々も多かったようで、それは「話題の風化タイミング」を見定めるそれぞれの感覚の違いだったのだろうと思います。視聴者からのツッコミ余地をつくることでブランドメッセージを投げ込んでいく「ツッコマビリティー」たっぷりの広告を継続的に展開してネットでも大人気の日清食品にしては珍しく、CM放映開始後1週間ほどで謝罪し、取り下げを発表しましたが、その後の対応が見事でした。

 「CRAZY MAKES the FUTURE. 諸君! いまだ! バカやろう!」とのシリーズを通したメッセージに即した形で、第3弾「おバカへの疾走編」で

 「こんな時代にバカをやる。それ自体に意味なんてない。たたかれて、叱られるだけだ。
 でも、オレたちはバカをやる。それは、時代を変えるためじゃない。
 時代に、テメェ(自分)を変えられないためだ。」

と、(たぶん……)盗んだバイクで走り出したビートたけし学長が街中を疾走し、そこに人々が足をもつれさせ転げながらも追いかけてゆく。日清食品が繰り出した炎上アンサーCMに、私は涙が止まりませんでした。

 日清食品が自社広告にかける熱量の高さ、そこに集結される人材のハイレベルさ、結果としての広告レベルの高さは誰もが知るところですが、「時代にテメェを変えられないように」バカをやり、発信し続けていくのだとの毅然としたメッセージには高尚な哲学さえ感じ、なんなら私、1日3食日清食品の製品にしてもいいと思ったほど(すみません誇張です。さすがに40代半ばで3食インスタントはきついっす)。

 日清食品がしていること、それは「出る杭は打たれるけれど、出過ぎた杭は打たれない」の体現なのだと思います。