自分を偽る就活生と「個性OK」の企業のすれ違い

 就活生の側からは「よくぞ言ってくれた!」との賛同の声が一斉に上がる一方で、現在人事などに所属したり、採用面接を担当した経験のある企業人たちの側からは

◆「ウチの会社では典型的な就活ルックじゃないからって、採用を不利にしたことはないけれど」
◆「弊社ではむしろ個性的な装いは歓迎ですよ! 社内の私たちも自由です!」
◆「今どき、就活生に向かってリクルートスーツにひっつめ髪を明文化して要求している企業なんてあるかな? 見当たらないなぁ……」
◆「銀行などは暗黙の了解のドレスコードがあるかもしれないけれど、結局ごく一部の業界だし、社風の問題だよね? アンケートに答えた就活生が全員、銀行志望だったの?」
◆「採用担当だけれど、なぜ就活生の側こそ毎年みんな同じクローンのような格好で臨むのか、疑問に思う」
◆「就活生のほうが、減点を恐れて萎縮しているように見える」

 との指摘が相次いだのでした。企業側はもうこれからは、没個性はダメだと身に染みて知っており(実際に戦える人材じゃないから)、個性を求めているのに、学生側がわざわざ個性を殺してやって来ることに歯がゆさを感じるとの声もありました。

 双方の温度差やスタンスの乖離(かいり)は、パンテーン広告の調査結果そのものにもはっきりと示されています。1334人の就活生の81%が「企業にあわせて自分を偽ったことがある」と答えた一方で、半数近くの企業が「学生の面接時・内定式時の服装や髪」は「評価に影響しない」と回答、服装や髪において、個性を出し、自社の面接を受けることに「賛成派」の企業は71%に上りました。パンテーンも「学生と企業の間に、服装・髪に関してのギャップが生まれている現状」をはっきりと指摘しています。

 それは、企業が嘘をついているのでしょうか? いいえ、そうではないと思うのです。

「制服みたいな就活ルック」に隠された心理

 実は企業は現実社会の中でもまれ、価値観も変容して、もっとオープンでくだけて現実に即している。だって、会社員だって(学生からはどんなさえないおじさんおばさんに見えようとも)人間ですし、日々働いているのですから、非合理的なこと、実際の生活に適していないことは「やってられない」からです。

 例えば日々の服装なんかもそうで、暑苦しくてやってられないから夏の男性はノータイのクールビズですし、あの殺人的な満員の通勤電車にジャケット姿で挑むなんてシワと脇汗必至ですから、会社に置きジャケットをしている男性、女性も多数。普段の仕事中に堅苦しいジャケットを羽織ったままなんて作業効率が下がるだけですから、内勤は基本的にノージャケでオッケーとなっている会社環境のほうが圧倒的に多いはずです。

 それから、女性で階段ばかり上る通勤をハイヒールで遂行したい、1日の勤務時間をオールハイヒールでおしゃれに過ごしたいなんていうのは「趣味」「修行」の領域です。心身の健康のことを考えるなら、幅広ローヒールやフラットシューズやスニーカーがいいという人だっている。客先にはマナーとしてジャケット着用で、くらいの不文律はあるにせよ、自分たちだってラクに会社生活、過ごしたいですから。

 ですから、既に社会人となっている人たちこそ自分たちの経験的な実感から、例えば就活女子の「ベージュトレンチコート+黒リクルートスーツ+ナチュスト+黒パンプス+黒革バッグ+黒髪ひっつめ」に対して、

◆「暑そう……重そう……」
◆「ていうか、なんでこのご時世にわざわざみんな同じ格好をしているの? スーツ量販店の陰謀?」
◆「あの制服みたいな大群を見ると、今年も弊社に就活の季節が来たなぁと思う」

 と、非合理性を感じているのです。

 では企業が「クローン」なんて求めていないのに、学生が「クローンコスプレ」をする理由は何なのか。