これは、徹底的に少女漫画なのだ

 私自身は、「おっさんずラブ」をリアルタイム放映でなく、大きな話題になった後に動画配信で見た組。でも、初めはすっかり懐疑的でした。きっと「BL(ボーイズラブ)を実写化したドラマ」なんでしょう? きっと男同士の愛情表現がトゥーマッチで、結局女子が一番目を背けたい現実の男を見てしまって、きっとがっかりするに違いない……。

 そんな「きっと」だらけの決めつけで見始めたら、第1話でぶっ飛んでしまったのです。それは洗練された台詞回しがビシバシと弾ける超一級のコメディーでした。

 キャストは軒並み抜群の演技力とルックスの持ち主ばかりで、大人が興ざめせず安心して見続けることのできるクオリティー。男性同士の恋愛うんぬん以前に、こんなに高度に洗練されたコメディーが日本のドラマにあるんだぁ、という驚きのほうが大きかったのです。嫌味も屈折もなくて、どのキャラクターも「きっと」広い日本のどこかに実在する。会話も「その人なら、『きっと』そう言う」と思えました。

 おなかに居座る頑固な脂肪を揺らす爆笑や涙腺からあふれて鼻から流れ出るほどの涙を繰り返しながら最終話まで見届けて、私は思いました。間違いなく個性的な面々による、間違いなく個性的なストーリーだけれど、気になるアクや不安定さを全く感じないのは、もしかして脚本家の徳尾浩司さんが生み出す場面と台詞の徹底的な「ラブ&ポップ」ぶり、いい意味での漫画的表現に徹したことで生まれた効果なのではないか?

 「私はBLは読まないからなぁ?」と言っていたある40代女性は、動画配信が始まった時にあまり期待せずに第1話を見て「面白い!」とハマり、その後最終話まで一気見したといいます。「あれはね、BLというより漫画的だからBLに塩な(興味のない)私にも理解できて、テーマはともかく話として純粋に面白いと思ったんだよね」。

 また別の30代女性はやはり動画配信で見始め、その頃からメールの語尾に「~だお」(ニヒルなはずの黒澤部長がはるたんに向けた文章の中でだけ見せる、乙女な表現)が頻発するようになりました。「田中圭って、あんなにカッコよかったんですね!(←それまでは視界外だった模様) もうはるたんにキュンキュンし過ぎて、部長がラブリー過ぎて、今日もこれからおっさんタイム(視聴時間)ですお!」。

 少女漫画的で人を傷つけない、ポジティブでポップな表現に徹して、ちょっとユニークなラブを描く。すると、世間で「性的少数派」なんて呼ばれる苦悩をこれでもかと掘り込んで描いて強引に理解させよう、共感を呼ぼうとするまでもなく、ポップをゲートにして入ってきた視聴者が、十分にキャラクターの葛藤を感受して心を動かすことができるのだと感じます。

アクなし、価値観の強要なし。少女漫画感と『ラブ&ポップ』が詰まった超一級のコメディー (C)PIXTA
アクなし、価値観の強要なし。少女漫画感と『ラブ&ポップ』が詰まった超一級のコメディー (C)PIXTA