スランプ脱出から再出発へ

 休止前から年に6回ほど、日本で調香の講師としてクラスを持っていたので、たびたび帰国はしていたのですが、休止中は日本で待っている生徒さんや家族、そして友人たちが心の拠り所になりました。日常では自然を愛でたり、今まで足を向けなかった所に行ったり……。そんな状態のまま数年を経たある日、友人がカプリ島にリフレッシュに行こうと誘ってくれたんです。今でもはっきり覚えていますが、ナポリ行きの飛行機の眼下に広がる雄大な山々の景色をぼんやり眺めていたとき、心がふっと軽くなるのを感じました。その瞬間を境に、創作意欲を取り戻したので、今思うとこれがスランプ脱出の瞬間だったのだと思います。

 物事に行き詰まったら、いったんそこから離れて、ひと呼吸置いてみる。いつもの景色を改めて見直したり、自然の中に自分を置くことで、ある種の“気づき”が与えられたのだと思います。2015年に活動を再開してからは、パッケージも桐箱から現在のスタイルに、ボトルのラベルもフロスト加工にプリントするなど、さまざまなマイナーチェンジを行いました。お香などの昔からの文化と、漫画やITなどのカルチャーが混在する日本。他の国にはないユニークな個性と、順応性の高さをあわせ持つ日本を、世界に向けてさらに自慢したいという思いに、今は駆られています。

愛用の仕事道具

 「モレスキンの手帳はいつも空港で買って、毎回カバーの色を変えながらずっと使っています。展示会のブースのデッサンとか、思いつくままにアイディアを書き留めています」。

プロフィール
新間美也
新間美也
静岡に生まれ育ち、京都に学び、現在パリ在住。フランスと日本を往復しながら、香りのオブジェや王侯貴族のオーダーメイド香水を制作するアーティストとして活動する傍ら、香り関連の講演や執筆活動を精力的に行う。日本へのこだわりが生む雅な香りは、シンプルかつ奥深く研ぎすまされた、まさに香りの“匠”だ。www.miyashinma.fr 

Photos:Yoko Sakamoto(人物) Text:Masami Yokoyama Editor:Mizuho Yonekawa

日経リュクス「パリで日本の感性を広める――自身の香水ブランドを立ち上げた、調香師・新間美也さんの生き方」を転載