会社を辞めて自由になるわけじゃない。将来への不安や焦りはセット

――だが、独立したとはいえ、仕事は新しく決まった媒体1社のみ。それだけでは当然、生活していくのは難しかった。

沙織さん 幸い、会社に勤めているときにピラティスのインストラクターの資格を取ることができたので、自分がこれまで実践して効果があったストレッチやボディーケアの方法も盛り込んで、オリジナルのレッスンをつくりました。自分でチラシやホームページを作成したり、友人に頼んで無料のモニター参加者を集めてもらったりして、公民館やレンタルスペースでレッスンをスタートさせました。

 人前で話すのが得意なほうではないので、最初はド緊張(笑)。でも、経験を積んで慣れていくしかないと、モニターを募って回数を重ねていったんです。

――レッスンでの収入が増えないまま、数カ月がたつと心にも焦りが……。この先、広がっていくのだろうかと不安になってきたという。

沙織さん 当時は「サロネーゼ」という言葉がはやっていた時期で、私のように個人で教室を開いている人は、旦那さんが高収入でお金に困っていない人がほとんどに感じられたんです。「そもそも私、生活の基盤がないのに独立してよかったのかな?」などと不安に陥りました。自分をガンガン売り込んで、稼いでいる同業者を見ると羨ましく感じたりもしました。

 そんな鳴かず飛ばずの状態が半年ほど続いて、「また会社勤めしたほうがいいのかな……」と、何度も弱気になって。でも、落ち込んで陰に入ってしまったときは、こう自分に言い聞かせていたんです。

 「私はまたあそこに戻りたいの? 自分が本当にやりたい仕事じゃなくて、上司から与えられたルーティンの仕事をしたいの?」

 「フリーを辞めてもいいけど、辞めなくたっていい。自分で決めたことなんだから、しんどくても続けよう! 続けていたら必ずチャンスが来る!」

 そうやって心を奮い立たせていました。毎朝行っているストレッチも、日々生まれるモヤモヤを洗い流してくれました。体を動かして、たっぷりと汗を流すと心もリセットされるんですよね。毎日の習慣が「ブレる心」を定位置に戻してくれた気がします。

あきらめなかったからこそ、訪れたチャンス

――ほどなくして、大きなチャンスが訪れた。沙織さんが書いた記事を見た女性誌の編集部から取材の依頼が舞い込んできたのだ。

沙織さん うれしかったですね。編集部から「取材してよかった」と思ってもらいたいので、いただいたテーマについて、十分に調べて準備をして臨みました。それが好評だったのか、次々と取材が来るようになり、ブログの読者が増えたり、カルチャーセンターでのレッスンも決まったりと一気に仕事が広がりました。独立して3年後には念願だった書籍の出版を果たし、雑誌をはじめ、ラジオ、テレビなどメディアにもたびたび出させてもらうようになりました。

 今、独立して10年がたちますが、ありがたいことに継続して出版や講演、メディア出演をさせていただいています。あの時、勇気を出して会社を飛び出してよかった。そして、途中でくさらずに、あきらめずに続けてきて本当によかったと思います。

あの時、勇気を出して会社を飛び出してよかった イラスト/PIXTA
あの時、勇気を出して会社を飛び出してよかった イラスト/PIXTA

 ただ、会社を辞めて独立することは、すべての人にお勧めできるものではないと思っています。会社という居場所があることは、毎日に安心感と安定をもたらしてくれますし、そこで仲間たちと好きな仕事ができるなら、それは幸せなことだと思うから……。

 明日の計画も、3年後のビジョンも自分で決めなくてはいけない孤独とプレッシャーはありますが、一方で「自分で決められる爽快感」もあります。私にはどうやら、その生き方が合っているようです。

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 今回で最終回となりましたが、7人の女性たちのストーリー、いかがだったでしょうか? 今の自分にはもう必要ないと分かっていても、それを手放すのは勇気がいるものです。でも、悩み、葛藤しながらも思い切って決断した「その先の世界」を女性たちは見せてくれました。何かをやめたくなったとき、彼女たちの姿をぜひ思い出してみてください。新しい世界へ、一歩踏み出せるかもしれません。

文/伯耆原良子 イラスト/PIXTA