時間の切り売りは「一人ブラック企業」化の始まり

 しかし、今副業をしている人の状況を調べてみると、企業側が期待する「ヨソモノの視点によるイノベーション」という理想とは少し違うものとなっているようです。

 求人・転職支援サービスの「エン転職」が20代~40代の正社員3111名に実施したアンケートでは、副業に興味がある人は9割で、副業に興味がある理由は「スキルアップのため」が22%、「キャリアを広げるため」が18%、「人脈を広げるため」が15%なのに対し、83%が「収入を得るため」でした。実際にやったことがある副業の6割はアルバイト(接客・販売・サービス系)で、副業をする際の難しさ第1位は「時間管理」だそうです。(*2)

 つまり、「家計の足し」にしたいという理由での副業が大半で、多くの人は自分の専門とする能力と関連する職種ではないアルバイトをしているというのが現状のようです。

 副業をするということは、自分の1日を、もう一つの組織のために費やすことです。工夫をしないと家族との時間も、今までより減る可能性もあります。時間は、イコール、命。そう考えると、大げさですが自分の身代金を差し出して仕事をするのと同義です。だとしたら、副業した分、それが複利となって、本業にも副業にもプライベートにもいい循環が生まれるような流れをつくれずに、単なる時間の切り売りに終わってしまうのは、命の無駄遣いともいえるのではないでしょうか。



時間ではなく価値を交換する「じぶん商品化戦略」

 このような話をすると、「会社はもう守ってくれない」「自分はどうなってしまうのだろう」「副業といっても私には他にできるものは何もない」と不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、悲観する必要はありません。私はむしろ、面白い時代になってきたなぁー、とワクワクしています。

 なぜなら、自分自身のスキルや思いを市場に問うことにより、副業先に雇ってもらって時間を切り売りするのではなく、あなたが自分自身を雇い、小さな事業主として「価値を交換する」ことが、今までよりもずっと簡単になってきているからです。

 今はネットでの発言や創作発表から出版デビューが決まったり、SNSでの「いいね」や「スキ」の可視化で自分の考えを世に気軽に問えたりという機会が多くあります。企業の名前や肩書きを通じた意見でなく、自分がどう感じたか、どう生きてきたか、誰のどんな問題を解決できるかといった、個人のスキルや魅力をそのまま世の中に問える時代です。また、オンラインの小売り環境も整い、創作物を直接販売することも容易になりましたし、クラウドソーシングという仕組みが整ったおかげで自分のスキルを求めている人とのマッチングも容易になりました。

 一つの企業にどっぷり漬かっていると、何に、どんなコストがかかって、どこでどう売り上げが上がり、どの部分が赤字を招いているかという全体像が見えなくなってしまいます。赤字部署でも給料が毎月予定通り支払われるのが当たり前のような環境にいると、自分が担っているどの仕事にどのような価値があるかという市場感覚は鈍ってしまいます。市場感覚は小さい商いを始めることによって磨くことができるようになりますし、磨かれた感覚は本業でも生かすことができます。

 今後年金支給年齢がどんどん上がることが予想されている中、ずっと会社員のコスト感覚、市場感覚のまま定年まで過ごすのはリスクでしかありません。自分のどの部分に、どんな価値があるか、それはどうやったら売れるかを考えていくことが、そのまま人生100年時代の対策にもつながるのです。