「じぶん商品化」を試して分かった教訓その1:パン教室の値付け編

 私は会社員時代、会社の許可を得て、週末起業で月に1回程度天然酵母パン教室の講師をしていました。しかし、毎回食材にこだわり過ぎて、原価率が40%~50%になるため、開催すればするほど赤字になってしまうのが実情でした(原価率とは販売価格のうち原価が占める割合のことで、飲食業ではだいたい30%くらいが上限だといわれています)。

 もちろんこれは経営上NG行為ですが、私にとって当時どうしても譲れないポイントが「こだわりの食材」だったのです。安く仕入れられる質の悪いバターを使って教室をするくらいなら、開催したくない! とまで思っていました。しかし、当時パン教室の相場は1回3500円程度だったので、その範囲で開催したい、という気持ちも抜けず、値段を上げてまで提供するほどの自信もなく、頑張ってその価格で開催していました。

 参加の皆様には喜んでもらい、リピーターになってくれた人も多かったのですがやはり日に日に赤字が募っていくのはつらいものがありました。会社員のままだったから続けられたものの、結局独立したのを機にパン教室の開催はやめてしまいました。

 今考えれば、食材へのこだわりが独り善がりのものではなく、相手にメリットがあるものであるとすれば、教室の高額化でもう少し結果は変わったかもしれない、などなど改善点、反省点は多く思い浮かぶのですが、これも実際に経験してみなければ分からないものでした。

 また、この経験から、実は私は料理を作ったり教えたりするのが、実はそんなに好きではないという自分自身のホンネも分かってしまいました。「料理好き」だと思っていたのは思い込みで、実は料理を通じた人との関わり、つまり「コミュニケーション」を取ること、料理を囲んで「おいしいね」「楽しいね」という場をつくることが好きなんだと気付きました。

 この経験から得た学びは、次のものでした。

●私の場合、趣味を仕事にすると冷静な経営判断ができなくなる → 好きで得意、だけでなく、好きで得意で勝てるものを見つけないとダメ

●相場にとらわれて、相場以上の値段でそれ以上の価値を付けるという思考が過去の自分にはなかった

●私は料理という手段(料理)を伝えたいのではなく、料理で得る目的(コミュニケーションの場)を伝えたかったと分かり、料理研究家の道は自分の進むべき道ではないと気付いた

「じぶん商品化」を試して分かった教訓その2:講師デビューの相場編

 2009年、独立してすぐに出版した「『朝4時起き』で、すべてがうまく回りだす!」(マガジンハウス)というデビュー作がいきなり10万部を超えるベストセラーとなったおかげで、私には、人前で話す経験がほとんどなかったのに講演の依頼が殺到しました。

 ベストセラーは「千三つ(1000人に3人)」といわれるほど珍しいことです。それに売り込まなくても続々と依頼が来るなんて、仕事が欲しい周囲からしてみたら夢のような話でしょう。しかし、今明かすと、講演の経験がほとんどないのに「いくらで受けていただけますか?」とひっきりなしに依頼が来るというのは、私にとってはかなりの恐怖でした。

 パン教室を開催していた時はあれほど相場を気にしていたのですが、講演の相場はネットを見ても出てきません。そこで、知人で講演を多く受けている人に、いくらで受けているかを聞いてみると「1時間35万円」とのこと。「そうなんだ!」とうのみにして、毎回依頼があるごとに「1時間35万円」と返事をしていたところ、サーッとひくように講演の依頼が途絶えてしまいました。今なら分かりますが、だいたい駆け出しの講師が企業に依頼されて話すときの相場は、どんなに高くても「1時間3万円~5万円」程度だそうです。駆け出しのくせに相場の10倍以上の値付けをしてしまったばかりに、人前で話すという場数を踏む貴重な機会を失ってしまった上、先方に高飛車な印象を与えてしまいました。

 後で分かった話ですが、「1時間35万円」と教えてくれたその人も、ちょっと見えを張った金額を私に伝えていたようです……。よっぽどのベテランでも1時間35万円はかなり高い部類に入るようです。

 このエピソードを講師仲間に最近話したところ「あー、それは、一瞬で研修講師派遣かいわいから引かれたね」「いきなりそんな金額を言う人は敬遠されるね」と言われてしまいました。

 今振り返ると、あの時もし1時間35万円で講演を受けていたらどれほど恐ろしいことになったかが、クレームの嵐になったかが分かるので、「断ってくれてよかった!」という経験です。おかげでコツコツ、見習いのような講演料から徐々に評価されて力をつけることができました。

 この経験から得た学びは、次のものでした。

●相場は、正しい情報を持っている人から聞くべき
●駆け出しの段階では、仕事を値段で選ぶとかえってソンをする
●仕事を選ばず依頼を受けていくことで単価を上げる実力をつける時期がある

 他にも、ここに書き切れないほど大小の失敗を繰り返しましたが、それでも、この経験があったからこそ、今自分がどう感じて、どういう案件なら気持ち良く受けられるか、自分のこのサービスをいくらで値付けするのが適切か、ということが分かってきたわけです。

 もちろん失敗のせいで遠回りの道を通ってしまうこともあるでしょうし、失敗しないようにするさまざまなノウハウは今の時代、ネットで検索すればすぐにみつかります。しかし、命に関わらない範囲で失敗しながら積み上げた経験こそが、今後のあなたを形づくっていくことを忘れないでください(この記事だって、一般的な教科書的な話ではなく、生々しい過去の失敗があったから原稿料としてお金を頂けるわけですから)。