紛争地や途上国・貧困地域などで独立・中立の立場で医療・人道援助活動を行う団体「国境なき医師団」で看護師として働く白川優子さん(44歳)。実は、白川さんは「国境なき医師団」に応募したものの、英語力が足りず合格できなかった過去がある。そこからどのように目標に向かっていったのか。紛争地での現在の仕事はどのようなものなのか。その軌跡と思いを伺った。

 前回記事・普通の高校生が紛争地の看護師になるまで 波乱の軌跡

 「国境なき医師団」に入団するには、看護師としての経験や熱意だけでは足りませんでした。英語力が絶対に必要だったんです。

 それでまず、英語力を付けようと通ったのが、日常会話を教えるような語学学校です。夜勤帰りでも通える学校で、授業はすごく楽しかったんですが、短期留学に行ってみたら、全然言葉が通じない。それで掛け持ちで、他の英語学校にも通ってみようと説明会に行ったとき、考えがまだまだ甘かったことに気付かされました。

「夜勤帰りの英会話学校は楽しかったんですが、短期留学先で言葉が通じませんでした」
「夜勤帰りの英会話学校は楽しかったんですが、短期留学先で言葉が通じませんでした」

 「目標は『国境なき医師団』に入ることです」と説明会の担当者に言ったら、それまで「これが申込書です」などと入学手続きについて意気揚々と説明していたのに顔色がさっと変わって、「え? それは多分、すごく時間がかかるよ。この学校でそのレベルまでいくかな」って言われてしまって。看護師というのは、人の命を握る仕事ですよね。日本でも大変なのにそれを英語でやらなければいけない。単に「英会話」ができるようになっただけではダメだということに初めて思い至ったんです。

 そびえ立つ英語の壁をどう乗り越えたらいいのか。悩む私を次のステップへと後押ししてくれたのは母でした。

 実は、英語は上達しないし、もうすぐ30歳にもなるしと、「国境なき医師団」に入るのは諦めようかな、と思っていた時期がありました。でも、毎日のように「国境なき医師団」のホームページをのぞき、現地で働く日本人看護師の写真を眺める私を、母は見ていたんですね。

 「きっとあなたは40歳になっても同じよ。5年経っても10年経っても『国境なき医師団』で働きたいというあなたの気持ちは変わらないわよ。だったら、今、行動を起こしなさい。留学に行きなさい」と背中をポンっと押してくれました。