言葉が分かり始めたから、もう少しいたい

 それからというもの、私は毎晩、宿舎で絵本を開いて予習をしました。絵では分からない部分を補う言葉を考えるためです。そして翌日キャンプへ行くと、身ぶり手ぶりを交えて読み聞かせをしました。子どもたちも理解するのに必死だったでしょうね。それでも楽しんでくれて、私の車がキャンプに着くたび、「キッコー! キッコー!」と私を呼んで駆け寄ってくれました。図書館を開くために派遣されたのですが、子どもと遊んでばかりいたので、SVAのスタッフに「安井さん、幼稚園を始めたの?」と言われていましたよ(笑)。

 そんなふうにして何カ月かたったある日のこと。子ども相手にモン語を覚えていた私は、その日突然、いつも子どもたちから言われる言葉の意味が分かったんです。私に絵本を渡しながら言う「ゴーピアンダウベムロン」は、「あなた話して。私たち聞くから」という意味だったんです! これが分かったときは本当にうれしくて、「せっかく言葉が分かり始めたのだから、もう少しここにいたい」と日本の上司に頼み、8カ月の滞在予定を、さらに1年延長してもらったんです。

「出版社へ勤めるつもりだったのに、遠くに来てしまいました」
「出版社へ勤めるつもりだったのに、遠くに来てしまいました」

 こうして少しずつコミュニケーションが取れるようになった頃、会話の中で、子どもたちが「ダネン」という言葉を口にしたんです。「ダネンって何?」と聞くと、「お話って意味だよ」と言います。それは、モン族に伝わる民話のことでした。「モン族にお話があるの!?」「あるよ。でも、夜にならないとしないんだ」

 難民キャンプは宿泊ができなくて、支援スタッフは近くの町の宿舎で寝泊まりしていたので、全く知らない世界だったんですね。「だったら私、泊まる!」と言うと、子どもたちは喜んで、「じゃあ今夜、あのおじさんが話してくれるから」と、ある語り手を紹介してくれました。

 その晩のことは、今思い出してもゾクゾクします。民話との出合いが、私とモン族の人々との関係をますます深めていくことになったんです。

*第2回に続く

聞き手・文/金田妙 写真/稲垣純也

◆モン文化研究・図書館活動家 安井清子さんインタビュー
第1回 就活を辞めてラオスへ! 移住し図書館を設立した女性(この記事)
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第3回 43歳の私に年下のラオス人がプロポーズ その結果… 3月29日公開予定

変更履歴:本文を一部修正しました。(2018年3月22日)