1位だったら全国版だったんですけどね

 2009年、二度目に出場した世界大会の結果は、2位でした。1位はまたもフランス。帰国した私は、新聞の取材を受けました。「この記事、どこに載るんですか?」そう聞くと記者の方は「関東版です」と答え、それからぽろっとこう言ったんです。「1位だったら全国版だったんですけどね」。その言葉に、私は思い知りました。2位じゃダメなんです。田崎さんにもこう言われました。「日本のチーズ業界にとっては輝かしい成績だけど、それにしても残念だったね」。それは1位の人ならではの感想だったのだと思います。

 思えば、田崎さんが世界一になってからの日本のワインブームは、目覚ましいものがありました。それまでは、焼き鳥とワインとの組み合わせを田崎さんが提案しても、「なんだかへんなことを言っているな」という扱いだったものが、世界一のタイトルを取った途端、彼の発言の説得力や発信力がまるで違ってきたんです。おかげで今では、居酒屋さんでも、ふつうにワインが飲めるようになっていますよね。

2位という結果は、村瀬さんに次のステップを踏もうと決断させました 提供/村瀬美幸
2位という結果は、村瀬さんに次のステップを踏もうと決断させました 提供/村瀬美幸

 「やっぱり1位を取らなくちゃ。2位の私には何かが欠けているんだ」と自己分析をした私は、それが「現場力」だと気付きました。国際大会の出場選手は、誰もがチーズを熟成したり、販売したりしている人でした。スクールの講師で、現場を知らないのは私だけ。そこで私は、修業のため、チーズ店に転職しようと決めたんです。

*第3回に続く

◆フロマジェ、ザ チーズルーム アカデミー副校長 村瀬美幸さんインタビュー
第1回 夢の職に就けた…けど自信がない キャリア捨てたCA
第2回 CAからチーズのプロへ「世界2位では駄目と知った」(この記事)
第3回 「何になるの?」と言われていたお稽古事で、世界一に 4月26日公開予定

聞き手・文/金田妙 写真/稲垣純也