移住を決め、チョコレート会社の経営者になった

 やがて私はコロンビアで、カカオから作るカカオ豆の品質向上の技術指導にも関わるようになりました。最初は時々訪れて手伝う程度でしたが、やがて移住を決意。知り合ったコロンビア人が、コロンビアのカカオ豆を輸出する会社を起こし、私はその会社に研究開発ディレクターとして出資して、いわゆる共同経営者になったのです。住んでいるのは、チョコレート工場のある南部のポパジャンと、飛行機を2本乗り継いで合計2時間半、全く反対側のカカオの自社発酵所がある北部サンタマルタ。二つの街を行ったり来たりしています。

「食べることが多いのは、チョコよりもカカオ豆。焼く前の生で食べています。慣れてくるとおいしいんですよ。カカオはアンチエイジング効果が高いんです。私は熱帯の炎天下でも日焼け止めを塗らないのですが、カカオのおかげで大丈夫!」

 日本人が移住するのですから、プライベートも仕事も少しは手伝ってほしいですよね。でもうちの共同経営者はほったらかしです。しかたなく自分で家を探し、最初の仕事でカカオ豆を1トン輸出した時も、できないスペイン語で配送会社に電話をかけて、1キロ何ペソで首都まで運んでもらえるかという交渉までしました。大変かどうかというより、耐えられるか耐えられないかと自問して、耐えられるのでやっていたんですね(笑)。

 コロンビアは、治安はよくなっていますが日本のようには安心できない国です。気を付けないでボーッとしていたり、気を緩めたりしていると、路上やバスの中でひったくりに遭いそうになることもありますし、違法なマリファナを吸っている人がたまにいて、おかしな目つきでじーっと見られることもあります。日本に帰って驚くのは、スマートフォンのブック型ケースにクレジットカードを入れている人が多いこと。コロンビアならすぐにひったくりに狙われます。私は、携帯で話しながら歩くことも、バスの中で電話を使うことも絶対しません。自分の身は自分で守っていくよりないんです。

「でも、カカオの仕事で危ない目に遭ったことはないんですよ。危ない仕事だと思われるとチョコレートのイメージも悪くなってしまうので、注意しています」

生産性が高いコロンビア人の働き方

 コロンビア人と日本人の働き方は違います。日本では、上司が仕事を細かく指示することが多いと思いますが、コロンビアでは課題を出すだけ。それについて社員は自分たちで考え、管理もします。仕事の進み具合を逐一上司に報告することはなく、各自が責任を持って行い、結果だけを共有するんです。ですから、生産性がとても高いんです。仕事の計画も日本のようにきっちりしていなくて、緩い計画があるなかでその都度調整していきます。

 私は割としっかり物事を計画するタイプだったので、当初はコロンビアのスタッフの働き方にイライラしたこともありました。女性社員がお昼になると残っている仕事を中断して全員そろって外出してしまうことも気になり、叱ったことがあるんです。そうしたら3日も口をきいてくれませんでした(笑)。コロンビア人は自尊心が高いので、怒るのではなくアドバイスをするべきだったのです。感情的に怒ったら、絶対ダメです。

 先日、共に働いているスタッフにもこう言われたばかりです。「MAYUMIも変わったね~。コロンビアのこと、分かるようになったね。昔は日本式のやり方を私たちに教えて、日本式の答えを求めていた」。今では私も、コロンビアの働き方に日本の働き方をスパイスとして加え、両国のいいところをミックスしています。

コロンビアのスタッフたち。「コロンビアのスタッフは、忙しくても残業はほとんどしないよう仕事をやりくりして休むので、仕事への不平もないんです」
Profile
小方真弓(おがた・まゆみ)
CACAO HUNTERS JAPAN代表(日本)。CACAO DE COLOMBIA S.A.S.研究開発ディレクター(コロンビア)。チョコレート原料メーカーにて研究開発、企画開発に従事。その後単身で欧州6カ国のチョコレート市場を巡り、カカオ生産国へカカオ調査の旅に出る。2003年よりチョコレート・カカオ技術コンサルティング事業を開始。国内のチョコレート事業開発の他、コロンビア、ペルー、パプアニューギニア、インドネシアなどのカカオ生産国で、チョコレート開発指導、カカオ品質改良指導に携わる。
CACAO HUNTERS JAPAN:https://cacaohunters.jp/

聞き手・文/金田妙 写真/清水知恵子