誰かを待つのではなく、自分たちで行動を起こそう

 私がお話ししたカカオの知識は、食べる方にとっては正直知らなくてもいいことばかりです。でも、カカオのことを少し知っただけで、食べるチョコレートの味わいが変わるかもしれません。物事って面白くて、知らなかった世界に触れると、同じものを見ても、自分の見え方が変わったりしますよね。私はまさにそれを経験したんです。カカオに引かれて日本を飛び出し、知らなかった世界を見たことで人生がすっかり変わったんですね。

 好奇心だけでここまできて、あまり大きな目標は持っていないのですが、いつかできたらいいなと思っていることが一つだけあります。カカオ生産者という川上にいる人を、チョコレートの世界という川下にいる人と同じ土俵に連れていくことができたらなと思うんです。コロンビアのカカオ生産者は、貧しく、社会の下層にいる人も多くて、それはしょうがないことだと最初から勝負を投げている人が少なくないんですね。でも、物を作ることは誰でも平等のはずです。

 よくチョコレートの世界の人がカカオの品種についてあれこれ語りますが、申し訳ないけれど、カカオ生産者のほうがよっぽど詳しいときもあります。毎日カカオを育てているんですから。そんな生産者がチョコレートの世界の人たちと同じ言葉でしゃべれるようになったら何が起こるだろうと想像すると、わくわくするんです。そのために私にできることは、農業としてのプロを育てること。プロ意識を持ってカカオを作ったら自分たちはどこまでいけるのかと、イメージしてほしいんです。

 以前私は、あるカカオ農家にこう言ったことがありました。「カカオの品質がよくなれば、その土地の名前は世界を旅するから」。魚沼産のコシヒカリみたいに、おいしいチョコレートを通してみんながその地域の名を知るようになれば、地域の経済は発展し、治安もよくなり、いろんな相乗効果が起こると伝えたんです。その生産者は、その言葉をずっと忘れずにいてくれて、実際その地域は、各国のチョコレート会社からもカカオ豆の問い合わせが増え、その豆で作ったチョコレートが世界の大会で賞を取ったこともあるんですよ。

「2015年には、私たちがチームで作ったコロンビア産カカオのチョコレートが、初めてインターナショナル・チョコレート・アワードのマイクロバッチ部門で金賞を取ったんです」

 自分たちの暮らしをよくしてくれる誰かを待つのではなく、自分たちで行動を起こしてほしい。そのために何をすればいいのかを、私は共に考えたいと思っています。

 いつの日か、未知のカカオを探して歩く人が私じゃなくて生産者になり、彼ら自身がチョコレートの市場をマネージングするようになったらいいですね! そんな日が来たら、私はまた新しいことを、もっと他の価値づくりを考えます。カカオとチョコレートの世界に21年、経験は積んでいるので、いくらでも他のことができますから!

Profile
小方真弓(おがた・まゆみ)
CACAO HUNTERS JAPAN代表(日本)。CACAO DE COLOMBIA S.A.S.研究開発ディレクター(コロンビア)。チョコレート原料メーカーにて研究開発、企画開発に従事。その後単身で欧州6カ国のチョコレート市場を巡り、カカオ生産国へカカオ調査の旅に出る。2003年よりチョコレート・カカオ技術コンサルティング事業を開始。国内のチョコレート事業開発の他、コロンビア、ペルー、パプアニューギニア、インドネシアなどのカカオ生産国で、チョコレート開発指導、カカオ品質改良指導に携わる。
CACAO HUNTERS JAPAN https://cacaohunters.jp/

聞き手・文/金田妙 写真/清水知恵子