今回ご紹介するのは、カカオハンターという聞き慣れない肩書を持つ小方真弓さん。世界各地の産地を巡ってまだ見ぬカカオを探し、現在は南米コロンビアでカカオ豆の輸出会社やチョコレート工場を経営している。こだわるのは「生粋のチョコレート」。品種や産地によって異なるカカオの香りと味をそのまま届けたいからだ。世界に飛び出したきっかけは、ある疑問と好奇心だった。それがついにはコロンビアのカカオをチョコレートの国際大会で金賞を取るまでの高みへと導く。チョコレートの裏話も驚きの連続で、読後はきっと食べたくなるはず!

第1回 退職理由は「カカオが見たい」 世界に踏み出した一歩
第2回 会社を辞めて南米へ移住 チョコレート会社経営者に
第3回 南米で契約農家2000人を守る日本人 働く意味とは(この記事)

カカオハンター・小方真弓さん年表
22歳 チョコレート会社に就職
28歳 会社を辞め、カカオ産地巡りをスタート
36歳 コロンビアのカカオ輸出会社に共同経営者として参画、コロンビアのカカオを探し始める
37歳 コロンビアに移住
39歳 コロンビアにチョコレート工場を建設
41歳 インターナショナル・チョコレート・アワード(*)を受賞
42歳 同じくコロンビアに、第二のチョコレート工場を建設

*2016年にはアメリカ大会のミルクチョコ部門にて最優秀賞を受賞。2015年と2016年には、世界大会のマイクロバッチダークチョコレート部門で金賞を受賞。

こだわるのは、生粋のチョコレート

 チョコレート工場の経営者となった今でも、私はまだ見ぬカカオを探してコロンビア各地を回っています。会社の仕事でもありますが、半分は趣味ですね(笑)。見つけたカカオはその場で割り、すぐにタネを口に含みます。生のカカオは、果肉は食べてもふつうはタネまで食べません。でも私は味と香りを確かめます。これが、産地や品種によって全然違うんです。渋みや苦みの中に隠れた違いを感じ取ると、私はその時点で、これがどんなチョコレートになるかをおおかたイメージできます。そして、発酵をどうしようかと考え始めます。

「カカオ豆は、発酵させる時間や空気の入れ方でも味が変わります。その発酵はワイン以上に複雑。やり方もたくさんあり、新しい発酵技術を探すことも楽しいんです!」

 発酵は、いわばお化粧です。カカオを探すときは、まずは美人のカカオをスカウトしますが、そのまま食べてもすっぴんのべっぴんは少なくて、8~9割はお化粧したほうがいいのです(笑)。つまり私たちは、スカウトマンをしながらメーキャップアーティストとしての技術も上げ、最終的にはコーディネーターとなり、そのカカオ豆の個性に合わせてチョコレートを仕上げるというわけです。

 日本で食べられているチョコレートは、カカオの詳細な産地までは分からない場合が多いですよね。ブレンドされていることもあります。私はそれをしたくなくて、生粋のチョコレートにこだわっています。バニラも香料も使わず、カカオの香りだけで勝負したい。日本には香り付けされたチョコレートが多いので、純粋過ぎるチョコレートはあまりポピュラーではないのですが、それでもその産地のカカオの味を届けたいと思っています。

「私たちの会社のチョコレートは、ワインのように、その土地や生産者の名前をパッケージに付けてご紹介しています。味と香りの違いを楽しんでください」

人の人生を背負う道を選んだ

 自分の見つけたカカオが、嗜好品として今までなかった世界にたどり着くことは、この上ない喜びです。でも今の私は、単純に「いいカカオが見つかった。わ~い!」では済まない立場にあります。カカオハンターとして好奇心優先の自分本位でいた時代は過ぎ、社会の役割を担うほうにシフトしているから。生産者や工場の社員など、たくさんの人の生活を背負っているんです。

 守るべき契約農家の人数は約2000人。彼らの作るカカオ豆の品質を上げるために、栽培の仕方や発酵技術などを指導し、良い豆ができるまでの農家の経費は、すべて私たちが負担します。できたカカオ豆は、会社に在庫が多かろうが、お金がなかろうが、買い続けます。ある日突然買い付けをやめたら、それまで築いた信頼関係が切れてしまうというのが、カカオの世界だからです。買ったカカオ豆は、チョコレートにするまで一度寝かせなければいけないので、その間も私たちは、財務上持ちこたえる体力を持っていないといけません。

 プレッシャーはありますよ。投げ出したくなることもあります。でも、世の中に役割があるとしたら、背負う人と背負ってもらってやっていく人とがいると思うんです。そして私は、背負うほうを選んだ。自分が何をやりたいのか、何をするべきか考えたときに、これだと思ったからです。

 「いつまでコロンビアにいるの?」とよく聞かれますが、私は拠点を日本に戻すつもりは当面はありません。理由は単純で、日本に帰ってもやりたいことができないのです。時々こうして帰国して、カカオの話をしたりチョコレートを紹介したりするけれど、それはコロンビアの生産者やスタッフを支え、チョコレートの裏側を知ってほしくて消費市場を啓蒙するため。カカオがあって、カカオの仕事をしたくて、カカオ生産者を支えたいので、それがない日本に長く戻る理由はないんですね。

「大変なこともありますが、仕事は人生、私にとっては自分そのものです!」