「勉強会」を通して見えてきたもの

 本業以外の活動は、人生でやりたいこと、成し遂げたい目的へ向かうための足掛かりになった――。松尾さんはそう強調します。

 「社会人になったばかりの数年間、目的が明確にならないまま長時間労働に明け暮れていたときは、どんどん『自分の言葉』を失っていく感覚がありました」(松尾さん)

 特に官僚の仕事は、自分の発言がメディアの報じる内容や国会などでの議論に大きく影響してしまうことも少なくありません。いつの間にか「上司の言う通りに発言しなければならない、という発想に陥っていた。組織内では、そうすることが正しいとされる雰囲気もありましたから」と振り返ります。

 それでも、「霞ヶ関ばたけ」の勉強会に参加した際、同じ職場の先輩が普段よりも柔らかい物腰で、自分の意見もしっかりと述べている姿に強い影響を受けたといいます。

 「若手は皆、志を持って入省してきます。初めの数年は『修行期間』として我慢しながら働くべきだ、という考え方は古いと個人的には思うんです。私は3年目で『霞ヶ関ばたけ』に参加して、今の仕事を選んだ原点や、これまで気が付かなかった自分の隠れたスキルを認識することができました。後輩が、なるべく早くそれを見つけられるよう、応援できる場所にしていきたいです」(松尾さん)

「若手は皆、志を持って入省します。初めの数年は『修行期間』として我慢しながら働くという考えは、古いと思うんです」(松尾さん)
「若手は皆、志を持って入省します。初めの数年は『修行期間』として我慢しながら働くという考えは、古いと思うんです」(松尾さん)

まずは、スモールスタートから!

 やりがいを感じられるものを見つけたり、継続していくために仕事や家事のやり繰りを考えたりすることは、それ自体がエネルギーを必要とする側面もあります。そんな人に松尾さんは「まずは他の誰かがやっている活動に参加するところからでもいい。スモールスタートを切ってみて」とアドバイスします。

 「自分自身を表現する手段が『職場で担当している業務だけ』ってもったいないと思うんです。小さく始めて、関わりたい度合いや取り組みたい方向性が見えてきたら、『こういうことに取り組んでいます』と主体的に発信するのも一つの方法です。それで周囲から応援してもらえる流れができれば、うれしいですよね」(松尾さん)

この人に聞きました

松尾真奈(まつお・まな) 農林水産省/霞ヶ関ばたけ代表 1989年京都市生まれ。大学在学中、京都府・京丹後市にある野間という地域にて「田舎で働き隊!」として活動。そこで出会った人や風景に魅了され、農林水産省に入省する。現在は、林野庁木材利用課にて国産材の利用促進を担当。本業の傍ら、食や農林水産業をテーマにした早朝勉強会「霞ヶ関ばたけ」の代表を務めるなど、国家公務員の新しい働き方を実践中。暮らしでは、4半期に1度、都内のホテルで「Quarter Session(クォーター・セッション)」と名付けた夫婦会議を開催し、夫婦で対話をする時間を大切にしている。

文/加藤藍子 写真/吉澤咲子