パワフルなキャリアの原動力は?

 好きなこと、実現したいことへのチャレンジを可能にしているのは「私一人の力ではない」――。正能さんはそう強調します。

 「毎日がキラキラしているように見られがちなのですが、仕事でもプライベートでも、引っかかることや悲しい気持ちになることはもちろんあります。だからこそ、友人や仕事仲間、学生たちにも、やりたいこと、ポジティブな目標はもちろん、弱みも含めて伝えていく意識を持っています。人生そんないいことばかりではないので(笑)、ですが、困っていたらみんな力を貸してくれるので、心強いんです。学生たちに助けられたことも一度や二度ではありません」(正能さん)

 ハピキラ創業後、初めてプロデュースを手掛けたのは、小布施特産の和菓子「栗鹿の子」。正能さんが描いたハート型をもとにパッケージを作り、バレンタインの贈り物にぴったりの「かのこっくり」という商品を開発しました。出版社など各メディアへ売り込みをかけながら、パルコでのショップ出店も取り付け、発案から半年足らずで販売までこぎ着けます。しかし、その道のりは「順風満帆とは程遠かった」と振り返ります。

 「雑誌の制作スケジュールなどを把握せずにプロモーションをかけたこともあり、まず取材前日なのに商品見本が手元にない、という事態に陥りました(笑)。慌てて美大生の友人を頼って、新宿にあった24時間営業のマクドナルドで必死にパッケージを手作り。そこは何とか乗り切りましたが、量産に当たっては商品のロット(工場生産するときの最小単位)についての知識が皆無だったことがネックに。結果的に2000個を作ることになってしまって……。初めに想定していた量の20倍です」(正能さん)

 それでも、テレビ番組などで取り上げられた効果もあり、10日間で完売。売り切った時には既に事業として継続していくことを決心していたといいます。

 「私は、私のやりたいことをやっただけなんです。お気に入りのお菓子を、大好きな場所を、みんなに伝えたかったから、かわいくした。それだけなのに、小布施の皆さんをはじめ、いろんな人に喜んでもらえたことがうれしかったんです。好きなことで誰かの役に立って、その証しとしてお金をもらえる。そんなお仕事がこの世にあるのだから、続けていきたいと思いました」(正能さん)

 大学時代からそのキャリアが脚光を浴びる中でも「すごいと言われたいとか、羨ましいと思われたいとか、そういう感情を原動力にしたことはない。むしろ、すごいって言われるのが一番苦手」なのだそう。

 「私にとって大切なのは、まず自分自身が楽しくて、納得していること。それを続けていると自然に『応援してるよ』『頑張れ』と声を掛けてもらえる場面が増えるんです。仕事でもプライベートでも、そんな共感と信頼をベースに、大切な人とつながっていきたいですね」(正能さん)

「自分の人生のタグを増やす」ことを意識しよう

 好きなこと、やりたいことを追求した手段として「起業」があり、さらに大手企業の社員と兼業する働き方にたどり着いた正能さん。重要なことは起業すること自体ではなく「人生のタグを増やすこと」と話します。

 「一つの会社で働いていると、その道のスキルを高めるとか、プロフェッショナルになるとか、キャリアを縦に積み上げていく意識が強くなると思います。でも、やりたいことって一つとは限らない。私の場合、ハピキラを起業した段階では『地方創生』『学生起業』といったタグが、そして会社員と両立する道を選択したことで『新しい働き方』というタグが自分の中に埋め込まれました。そんなふうに可能性を横に広げていくと、新しい人生のカードが手に入るんじゃないかな

 人とのつながりに広がりが生まれることも、兼業のメリットだといいます。

 「ハピキラの経営者としては自治体や地方企業のトップ層、デザイナーなどクリエーティブ系の人と仕事をする場面が増えます。一方、ソニー社員であるからこそ、現場のIT系技術者や大企業の中で頑張っている人とやり取りをする機会も持てます。双方の仕事の新しい展開につながることも少なくありません」(正能さん)

「やりたいことって一つとは限らない。いろんな『タグ』を増やして、可能性を横に広げていくと、新しい自分が見つかります」(正能さん)
「やりたいことって一つとは限らない。いろんな『タグ』を増やして、可能性を横に広げていくと、新しい自分が見つかります」(正能さん)

「やりたいこと」を明確にすることが、未来を切り開く

 2018年4月からは、大学院の特任助教として学生たちと活動する正能さん。「本業の他に副業を持つ発想というよりは、『正能茉優』という人間に軸があり、そこにいろいろな活動がひもづいていくイメージ」と話します。

 自分の可能性を限定せず、素直な思いを具体化した先に、開けるキャリアがあるかもしれません。皆さんも自分だけの人生配分表、まずは作ってみませんか。

取材・文/加藤藍子 写真/吉澤咲子

プロフィール
正能茉優
1991年東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部在学中に「小布施若者会議」を創設し、その後ハピキラFACTORYを設立。卒業後は博報堂に入社し、2年半の勤務を経てソニーへ転職。現在はソニーモバイルに勤務しながらハピキラの経営も並行して継続している。過去には経済産業省「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会」委員も担当。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教としても活動中。
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