セルフ・ブランディングを確立し、影響力を広げる方法

 では、自身のブランディングをデザインするには、どうしたらいいのでしょうか? 田村さんによると、基盤となるのは「社会や組織にとって必要なスキルの取得」「自分の強みの理解」「信頼の蓄積」の3つ。

 「今の社会が何を求め、自分に何ができるのか。あるいは、自分の組織が求めるもの、自分にとって大事なものなどを考えることで、自身のことが分かってきます。どんな存在になりたいかを理解し、意識しながら行動に移せば、自分に効果的なセルフ・ブランディングが確立できるでしょう」(田村さん)

 その上で、アイデアやそれを支える価値観、弾みをつける精神的なエネルギーを効果的に活用すれば「エグゼクティブとしての影響力をより広げられます」と、田村さん。「自分がどういう専門家で、何がしたいのかを考えてブランディングすれば、相手に『この人はこういう人なんだ』『だから使いたいんだ』『任せたいんだ』と認識されます。そうやって少しずつでもいいので、皆様もエグゼクティブの道に進んでいただければ」とのエールを最後に、特別講演は終了しました。

4名の女性エグゼクティブが意見を交わしたパネルディスカッション

 プログラムの最後を飾るのは、「女性が役員になるために必要な条件」と題したパネルディスカッションです。

 パネリストはSOMPO企業保険金サポートの代表取締役社長、陶山さなえさん、セブン‐イレブン・ジャパン取締役常務執行役員の藤本圭子さん、ロート製薬取締役、力石正子さん、アクセンチュアの執行役員で金融サービス本部 アジア太平洋・アフリカ・中東・トルコ地区 証券グループ統括 兼 インクルージョン & ダイバーシティ統括を行う堀江章子さんの4名。先に講演を行ったアクセンチュアの田村さんが進行を務める中、それぞれが自身のキャリアを振り返りながら、女性が役員になるための条件を語り合いました。

あの出来事があるから、今の自分がいる…。それぞれのキャリアの転機

 パネリストの皆さんへ向けられた質問の一つ目は、「それぞれのキャリアの転機はいつだったか?」というもの。部署が変わった時、リーダーを任命された時、あるいはグローバル研修で女性リーダーに会って刺激を受けた時など、さまざまな答えが飛び出す中、「ぜひお伝えしたいことがある」と語ったのは力石さんです。

 「部署異動などを提示されてイヤだと思っても、ポジティブに捉えてやってみてください。私も異動を命じられた時は『私はいらないのか』と思い込み、大いに落ち込みましたが、今ではあれが転機だったと理解しています」(力石さん)

なぜ自分が役員に? 会社から望まれたこととは

 二つ目の質問は、「役員に登用された理由や、望まれたことは?」。「年齢に的に、その時点で残っている女性がいなかった」という声と共に聞かれたのは、「あなたの視点で感じたことを、経営の場でも発信してほしい」というものでした。

 「男性ばかりの役員会に入った時、新しい視点、違う立場からの経営に対する意見が期待されました。いろいろな人がいろいろな意見を出すことで、イノベーションが起こりますから。発想が違い過ぎて『何言っているの?』と言われたりもしましたが、逆に興味を持って『もっと言ってほしい』と頼まれることもありますね」(堀江さん)

女性役員が増えていけば、組織も社会も変わっていく

 最後は「女性役員の登用は、社会にどのような影響をもたらすと思うか」という質問です。陶山さんによると、「女性視点の活用で進むプロダクトイノベーション」「女性が働きやすい環境整備から得られるプロセスイノベーション」「女性が働き、世帯収入が増加することで起こる消費拡大」「女性が働くことに伴う、新たなニーズやマーケットの創出」の4つが挙げられるとか。

 「これらが相互に作用することで、企業の業績向上や日本経済の持続的成長につながると思います。そういった意味では女性だけのメリットではなく、社会全体や男性の働き方革新、豊かな人生設計への転機のきっかけになるのではないかと。だからこそ、女性の数、ひいては女性役員の割合を増やすべきなのでしょう」(陶山さん)

 そして、リーダーを目指す女性たちへのメッセージを聞かれ、皆さんは異口同音に「チャンスを逃さないで」「自分の限界をつくらないで」といったことを挙げていきます。

 「今後、二つの預金を増やしていってください。一つは成果預金。約束を守るなどの小さなことで構いません。もう一つは、人間関係預金。上司や同僚、あるいは自分の仕事で影響を受ける人たちと、良好な関係を結んでほしいと思います。これらの預金がたまれば、いろいろなオファーが来ますから」(藤本さん)

 パネリストからの力強いメッセージに、盛大な拍手で返した来場者の方々。この日に生まれた多くの金言は、次世代のリーダーを目指す彼女たちの心にしっかりと響いたのでした。

取材・文/石川由紀子 写真/辺見真也