「娘のせいで仕事を辞めた」とは言いたくなかった

 次のテーマ「人生100年時代の女性の働き方・生き方」では、及川さんが自身のキャリアを振り返り、その中での心の浮き沈みを折れ線グラフで表した「キャリアチャート」を公開しました。

 「実際に書いてみると、思ったよりジグザグしていました(笑)。そしてすべての転機は、グラフがグッと下がっているときに訪れました。順風満帆のときは傲慢になりがちなので、転機はまず来ません。苦しみもがくときにこそ、気付きが生まれ、一段、階段を上るきっかけになるんです」と及川さん。

 娘さんが小学校に入学したとき、一つの大きな試練が来ました。「娘が『学校に行きたくない』と言い出す、いわゆる『小1ショック』です」と及川さんは振り返ります。

 当時、小学校に進学すると、保育園時代と違って、娘さんの友人のお母さんのほとんどが専業主婦でした。友人は帰宅するとお母さんが家で待っていますが、働くお母さんの子どもは学童保育で放課後を過ごします。周囲が悪意なく「頑張っているわね、けなげね」と褒めたつもりでも、娘さんは敏感に受け止めます。そしてついに、「お母さん、仕事を辞めて」と泣きながら訴えるようになったのです。

 「私は、娘に対して、『あなたのせいで仕事を辞めた』と、後で絶対言いたくないという強い気持ちがありました。逆に、『あなたが許してくれたから、仕事を続けることができた』と言いたかったんです」(及川さん)

「娘のせいで仕事を辞めたとは言いたくありませんでした」と強い気持ちを打ち明ける及川さん
「娘のせいで仕事を辞めたとは言いたくありませんでした」と強い気持ちを打ち明ける及川さん

 登校を拒む幼い娘さんを目の当たりにし、及川さん自身が会社を辞めるという選択肢が頭をよぎる日も、実はあったといいます。ですが及川さんは娘さんとしっかり向き合い、自分の気持ちを伝えることを選びました。「お母さんは仕事が好き。あなたに恥ずかしい思いはさせないから、お母さんが仕事を続けることを納得してほしい」――そんな思いを伝え続けるうち、娘さんの状況は次第に落ち着いていきました。

 「小学校1年生でも、しっかりと話すと理解してくれました」(及川さん)

 今、大学生になった娘さんは、「あのときは確かにちょっと寂しかったけど、今はお母さんが仕事をしていることを、誇りに思う」と言ってくれるといいます。

 子育てと仕事の両立という、働く母が経験する葛藤について、ご自身の体験を率直に語ってくれた及川さん。聴講の女性たちは、真剣に聞き入っていました。