女性役員登用のカギ―パネルディスカッション

 最後に行われたパネルディスカッション「女性役員を登用するために必要な条件」では、日本航空代表取締役専務執行役員・大川順子さん、野村信託銀行執行役社長・鳥海智絵さん、リクルートスタッフィング代表取締役社長・柏村美生さんといった企業トップを務める3人の女性と、アクセンチュア執行役員の堀江章子さんによって活発な議論がかわされた。今回、ディスカッションに参加した4人ともに、それぞれが所属する企業での「フロントランナー」と呼べる存在だ。

左から順に、日本航空代表取締役専務執行役員・大川順子さん、野村信託銀行執行役社長・鳥海智絵さん、リクルートスタッフィング代表取締役社長・柏村美生さん、アクセンチュア執行役員・堀江章子さん

「少数派」になると、誰でも臆病になる

 最初のテーマは「先駆者としての苦労や困難」。客室乗務員から結婚・出産を経てチーフパーサー、客室乗務管理職、そして2010年に客室本部の執行役員になったJALの大川さんは、「役員になるということは多くの場合、『男性社会の中に女性が一人で入る』ということでもあるので、数の上で『少数派』になります。そこでつい、臆病になってしまうことは避けられないでしょう」と語った。

 こんなとき、女性役員はどうやって「逆境」を乗り越えるのか。大川さんは部下や同僚といった、自分を支えてくれている「仲間」の存在を思い、励みにすれば乗り越えられるはずだと、これから未知の世界に羽ばたこうとしている女性たちにエールを送った。

 リクルートスタッフィングの柏村さんは、個を尊重するリクルートの体質上、マネジメントの役職に就くまでは男女の差や、女性がマイノリティーであることは感じたことはなかったという。しかし部長、役員と昇進していくうちに、気が付くと周りが男性ばかりになっていた。そして、昇進とともに男女の仕事の仕方が違うことに気付くことが増えたという。

 「例えば、会議のリアクションが違う。どんなに的外れな意見であっても、男性は基本的に一度その意見を受け入れてから、自分の意見を言います。女性は相手が話し終わらないうちに、今の意見はイマイチですよねと言ってしまう傾向があると感じました」(柏村さん)

 そんな状況と、女性はどう向き合うべきか。柏村さんは「物事は、正しいから伝わるというものではない。そして、伝わらないと意味がありません。だからこそ私は、相手が分かる言語で話す――つまり、相手が理解しやすい、伝わる話し方を常に心掛けるようになりました」と振り返った。

いったん開き直れば、スッキリする

 「開き直り」の重要性を指摘したのは、野村信託銀行の鳥海さんだ。「女性がそんな役職に就くなんて許せない」――。それが、野村証券史上、初めて女性として社長秘書に就任した鳥海さんに男性社員から投げかけられた言葉だった。

 「別に私が秘書にしてほしいと上層部に頼んだわけではないし……と開き直ってみると、心の中で思っていたことをおっしゃってくださった感じがむしろスッキリしました(笑)」。女性は出世することで、周りから傷つくようなことを言われるケースが少なからずある。しかし、そんなことは気にする必要はないし、楽観的に考えればいい。そんな鳥海さんの言葉には、会場の女性たちも勇気づけられたはずだ。

 アクセンチュアの堀江さんが上級管理職に就任した当時、同社の日本法人には「女性の上級管理職」がほぼいない状況で不安だったという。ただ、同社の世界中にいる「Cレベル」(CEOやCOO、CFOといった、肩書きに「C」がつく役職者)の人たちから、「グローバルだと女性の管理職は当たり前のようにいるからね」と励まされたことで、気持ちを前向きに切り替えられたと振り返る。

左から順に、日本航空代表取締役専務執行役員・大川順子さん、野村信託銀行執行役社長・鳥海智絵さん、リクルートスタッフィング代表取締役社長・柏村美生さん、アクセンチュア執行役員・堀江章子さん

女性役員が増えると「ムダな時間」が減る

 「女性の登用が進み役員が増えることは、社会にどんな影響を与えるか」というテーマでは、参加者のワクワク感を刺激する発言が多数飛び出した。

 「女性役員が増えるとムダが減る」と断言したのは、鳥海さんだ。「女性のほうが効率的ではないプロセスやネゴシエーションなどを嫌い、直接的に結果を求めにいく傾向があると感じます」という発言は、大川さんも強く賛同を示した。

女性役員の登用が増えるとどうなるか――刺激的な議論が交わされた

 その大川さんは、「マネジメントの根本的な考え方が、『仕組み』から『人』に変わるだろう」という考えを示した。そのココロは、男社会だった日本の企業経営層に女性が増えていくことによる多様性の獲得により、人中心のマネジメントが効果を上げる。「さまざまな背景を持つ社員が活躍できる環境の中で『働きがい』を見い出し、その結果として、一人ひとりが輝ける会社が増え、ひいてはすべての人が暮らしやすく魅力あふれる社会の実現に期待したい」と大川さんは示した。

 柏村さんは「働きにくい社会が働きやすくなる」と語った。現状の企業社会の、「男」で「健常者」中心の労働システムが、女性活躍を突破口にして、「女性だけでなく、子育て世代、親の介護をされている方、障害者といったあらゆる制約があるすべての人も含め、誰もが働きやすく、社会参加しやすい社会の実現につなげたい」という独自の思いを語った。

 男女の所得格差のデータを基に、「女性が自分のことを正しく理解できるようになる」と語った堀江さんは、「所得格差が単純な『役割』の違いによるものなのか、はたまた『能力』の差によるものかを女性自身が理解できていない現状」を指摘。その上で、まずは女性活躍が進むことで男女の役割および所得の「ギャップ」を埋めていくことに期待を示した。

役職が上がるにつれ「大切なもの」は増える

 最後は4人の「エグゼクティブ・ウーマン」たちから、それぞれの言葉で、役員を目指す女性たちにエールが送られた。

 堀江さんは「自分がなりたいと思っている人たちの話を積極的に聞いてください。そして、自分自身が役員になるまでに、現時点でどのくらいの『準備』ができているかを認識する――。そういう機会をぜひ、増やしてほしいです」とアドバイスを送った。

 「私は役職が上がるにつれ、大切なものが増え、楽しくなりました。自分はどういうときにいきいきと元気に働いているのか。どういうときに楽しいと感じるかをぜひ自覚してください」(柏村さん)

 「自信がないこと、臆病なことを受け入れて大切にしてほしい。その気持ちが入念な準備につながります。そしてその『準備』こそが、結果を出すためには欠かせないものなのです」(鳥海さん)

 そして「トリ」を飾ったのは大川さん。「楽しい社会をつくりたいのは皆同じですよね。皆さん、よりよい社会、素晴らしい未来の実現に一役買いましょう」と会場に詰めかけた「未来の女性役員」たちのハートに火を付けた。

 会場の空気が最大に盛り上がったところで、「第3回ウーマン・エグゼクティブ・カウンシル」の幕は閉じた。

取材・文/高島三幸 写真/鈴木愛子