――渡辺さんが演じたタクミという役について書こうとすると、ネタバレになりかねないので注意が必要ですが、渡辺さんご自身は彼をどのようにとらえて演じられたのでしょうか?
「タクミは、“実線”で表せないキャラクターという感じがします。“点線”というか、輪郭の薄い影絵のような存在ですね。彼のバックグラウンドや人生観もあえて掘り起こさず、タクミのセリフも『これは誰が言っているんだろう』と思ってもらえるような、明確な輪郭付けをしないようにして演じました」
――「追憶の森」は日本が舞台となっていますが、青木ヶ原の樹海が自殺の名所として世界的に有名なのは、日本人としてはあまりうれしいことではないですよね。ヴァン・サント監督やマシューさんと、この題材について話し合われましたか?
「噂になっていることと実際のことは結構違ったりするので、そういうことを話したりはしましたが、僕もそんなに詳しくなく、世界的に有名ということにむしろ驚きました。日本人の間では、(海外で樹海の知名度が高いことは)そんなに有名じゃないよね」
――私もこの映画を観て、調べてみて、海外からわざわざ来る人たちがいると知りました。
「そうでしょ、実際にはそんなにたくさんの人が来ているわけじゃないと思うけどね」
――マシューさんは、渡辺さんは「準備万端で現場に現れた」とおっしゃっていたそうですが、共演者が準備万端だと感じるのは、渡辺さんのどんなところからだと思いますか?
「(照れ笑いしながら)現場で四の五の言わないからかな。現場に入ると、『俺はこうなんだ、ああなんだ、このシーンはこうで、ああで……』というような理詰めの人って結構いるんだけど、僕はその時の雰囲気や空気みたいなものをストンとそのまま受け入れて演じるタイプだから。そういう意味ではマシューも同じで、彼にこそ『準備万端だった』と返したいよ(笑)。彼とは経歴も年齢も違うけど、タイプ的に似ている俳優だという気がするんです。準備はちゃんとするけれど、カメラの前に捨て身で立つみたいなところが似ていると思いました」
――ありがとうございます! では最後に、日本と海外の両方でご活躍を続けていらっしゃる渡辺さんに、海外で仕事をしたいけれど、なかなか勇気が出なかったり、きっかけをつかめなかったりしている人たちに、何かアドバイスをお願いできますでしょうか。
「僕を参考にしてもらっていいのかどうかは分かりませんが、そうですね、考えるよりも先にアクションを起こす方がいいんじゃないかな。僕は考える間もなく、海外に出ていました。あまりリスクを考えたり、結末を考えたりすると、ロクなことがないので、とにかく動いて、その先にあるものをまた選ぶのか、撤退するのか、または道を変えるのか、それはその時の自分の感覚で決めればいいと思います。まずはアクションを起こすことですね!」
文/清水久美子 写真/鈴木智哉