アメリカ脱出か、トランプを静観か……

 11月8日から9日にかけて、カナダ移民局のサイトにアクセスが集中してサーバーがダウンし、ニュージーランドへの移民申請が5割増えたとの報道もあるなど、海外への移住を考える人たちも見られます。

「アメリカを脱出しよう!」「そうしよう!」 (C)PIXTA
「アメリカを脱出しよう!」「そうしよう!」 (C)PIXTA

 ところが、こうした目立った抗議活動の一方で、国民の84%が「結果を受け入れる」と回答したと米国ギャラップ社が発表しています。これは、選挙翌日に約500人に電話アンケートを取った結果です。回答者の属性も大きく関係し、また分母数が小さいのでこれが絶対ではないものの、徐々に受け入れ姿勢が見られているのも事実です。

 俳優のロバート・デニーロ氏も選挙前はトランプを「殴ってやりたい」とコメントしていました。ところが、選挙後のイギリスの「インディペンデント」のインタビューでは「多くの都市でたくさんの人が怒り、抗議をしている」としながらも「トランプはともかく、大統領という地位には敬意を払わなければならない。トランプがこれからどうするのか、どうやってこなしていくのかを見守るべきだろう」と話していました。

 実際、オバマ現大統領との会談で見られたトランプの姿が「借りてきたネコ」「優等生に変身」と報じられるなど、選挙戦時の暴言は一時的に影をひそめています。さらに、公約だった不法移民の強制送還も犯罪歴がある一部に限るなど、現実を見据えた内容に変わってきました。

 民衆の不満感情をあおり、「Drain the swamp ヘドロを掻きだせ」を掲げてポピュリズムの台頭と評されたトランプの選挙。ニューヨークタイムズは「トランプ支持者が考えるよりも変革には複雑で金のかかるものだ」「トランプは努力を惜しむな」と書いています。それでも、デニーロのコメントが代表するように、アメリカ国民が怒りや不安を抱えながらも、静観する姿勢を見せ始めたのも確かです。

 今回の選挙では、得票数自体はヒラリー・クリントンのほうが勝り、選挙人の獲得数だけでトランプが勝利。つまり、得票数と選挙人の数が逆転して、得票が少なかったトランプのほうが勝利してしまったわけです。選挙人選挙では、過去には裏切りものが出たこともあるとされています。まだクリントンになる可能性も皆無ではないものの……アメリカも世界も腹をくくる必要がありそうです。

文/上野陽子 写真/PIXTA