再び2通のメール
私のミュージカルのサイトは、じわじわと読者を増やしていった。
反響を見ていると、濃いネタほどウケがいい。
やはり、熱狂的なファンが多い世界なのだ。
だから、過剰にあおったりして読者を無理に増やそうとするのではなく、みんなの期待に応えるようなマニアックな記事をコンスタントに出し続けることが大切だろう。
腰を据えて取り組むことにした。
ミュージカル俳優に単独インタビューする企画も、次第に実現していった。
緊張しながら話を聞いてみると、
「アイツのこともインタビューしたんだよね」
と何人かに言われた。
アイツとはもちろん、ミュージカルを降板し、事務所も辞めた小田マモルである。
私がインタビューしたことが、なぜか仲間の間で広まっていたのだ。
噂では、オダマモは新しいプロジェクトを始めるらしい。
原作がある従来の2.5次元ミュージカルの枠を超えた、新しいパフォーマンスの舞台。
そのプロジェクトに、知り合いを誘っているのだろうか?
気になる……。またオダマモ本人から話を聞きたい……。
遅くまでかかってインタビュー原稿をまとめた私は、休むことなく、次の記事の企画書をまとめていた。
「元アスリート俳優が、腹筋しながら次作への意気込みをシャウト!」
うーん、これはさすがにふざけすぎかなぁ。でも、ノリが良さそうな人だから、初対面だけどやってくれるかもしれない。
事務所の近くに、インタビュー場所として借りられそうなスポーツジムはないだろうか……?
ふと顔を上げると、いつのまにか会社に戻ってきた上司が、黙々とパソコンに向かっている。
心なしか、機嫌が良さそうだ。
「何かいいことあったんですか?」
そう声をかけてみると、少し驚いたような表情でこう返してきた。
「よくわかりましたね。ふふふ。本を書くことになったんです」
「本ですか」
「これまでとはだいぶ違うタイプの本なんです」
「これまでって、パソコンの『誤変換』とか、笑えるような本が多かったですよね。今度はどんな内容ですか?」
「今って、学生の就職活動がものすごく大変で、会社に入れたとしても、『何で自分はこんな仕事してるんだろう』って悩んでいる人がすごく多いと思うんですよ」
「そうでしょうね……」
「2、3年で辞めちゃったり。もしくは、辞めようか迷ったりする人はたくさんいて、みんな、そもそも自分のやりたかったことって何だろう、自分の夢って何だろうとか考えちゃったり」
「自分探しっていうやつですね」
「そんな人たちに向けて、すぐに会社を辞めないほうがいいんじゃないか、今の仕事を続けながら夢を実現させる方法があるんじゃないか、っていうことを伝えたいんです。そんな本を書こうと思います」
なるほど、と思いながら、ふと気がついた。