上司から予想外の質問「あなたの夢は?」

 それは、今の部署に異動になったことだ。
 自分から希望したわけじゃなくて、ある日突然、
 「ヤグチさん、異動ですから」
 と人事に言われて。
 そして、私の上司になったのは、会社の中でも「一番の変人」として知られている人だった。
 うちの会社は、どちらかと言うとカタそうな人が多くて、きちっとした雰囲気の部署ばかりなのに、異動したところだけは、なんだか変わっていた。
 そのときまでは、なんとなく名前を知っているだけだった新しい上司が、私が変わるきっかけをくれたのだった。
 今考えても、信じられないような話なのだが……。

 「昼ごはん行きましょうか」
 新しい部署に初めて出勤した日、上司がそう声をかけてきた。
 異動してきた私を歓迎するためのランチだろうか。私は会社の人とご飯を食べに行ったことがほとんどない。でも今日は、高いお店に連れて行ってもらえるかもしれない、と期待してついて行くと、会社のすぐ近くにあるボロい定食屋に入っていった。

 「チーフはここによく来るんですか?」
 と聞いたら、
 「僕、ほとんど会社の人とランチしたことないんですよね」
 という返事。
 なんだそりゃ。

 会社から一番近い定食屋で、定番中の定番とも言うべきサバの味噌煮定食を食べていたら、 上司が唐突にこう聞いてきた。

 「ヤグチさんの夢はなんですか?」