記事のヒットに必要なのは、ヤグチの○○

 自分の個人的な夢のために仕事をして、本当にいいのだろうか? エゴのために働いて、会社から給料をもらう。そんなことが許されるのか?
 首をかしげていると、上司がこう言った。
 「もちろん、会社で自分の好きなネタについて書き続けるためには、ずっと成果を出し続けなくちゃいけない。それは大変だよ。でも、継続していい記事を書いていけば、視聴者数を稼いでいける。そうしたら、誰も文句を言わないでしょ」
 「そうかもしれませんが……」
 「僕はミュージカルのことはよくわからないけれども、ネットでどうすればウケるのかは、誰よりもよくわかってる。今回の記事も、記事のタイトルや見出しの付け方を変えておいたけど、そういった面からは有益なアドバイスができる。でも、最終的にヒットするためには、ヤグチさんの思い入れが必要なんだよ」

 ふと疑問に思ってきいてみた。
 「そういえば、夢についてそんなふうに言うからには、チーフにも夢があるんですよね?」
 「僕の夢は、これだよ」
 と言って、スマートフォンの画面を見せてくれた。

 「え? これってLINEの会話ですよね?」
 「今は、個人のクリエイターがLINEスタンプを出せるんだ」
 「へぇー。そういえばこのキャラ、どこかで見たことがあります」
 「実はこのスタンプ、僕が作ったんだ」
 「ええーー!」

 それは、思わず脱力してしまう、ゆるキャラのような、変なイラストのキャラクタースタンプだった。

 いかにも素人が描いたふうの、ヘタウマ、というより下手なだけのイラスト。
 「これを、みんながお金を出して買うんですか?」
 「うん。ランキングで5位になったり、有名な雑誌に出たりして、すごく売れたんだ」

 個人がスタンプを作れるようになったのはわかるけれども、この絵は下手すぎるんじゃないか……。こういう作風がウケるのだろうか? 何にせよ、これが売れるなんて……。
 「こういうイラストを描いたり、ゆるキャラを作ったりするのが、チーフの夢なんですか?」