落ちこんでいるときに元気がもらえたり、新しい視点が得られたり……ときには、人生が変わるほどの大きな力を持つ「本」。広告代理店のクリエイティブプロデューサーとして数多くの「人の心を動かす言葉」を生み出してきたひきたよしあきさんによる『あなたを変える「魔法の本棚」』連載では、読むたびに自分の個性や知性が磨かれ、人生が前向きに変わっていくことを実感できる“特別な一冊”を厳選して紹介していきます。

◆今回のことば

「昨日の自分をわずかにでも乗り越えていくこと」

――「走ることについて語るときに 僕の語ること」より

「走ることについて語るときに僕の語ること」 (村上春樹著 文春文庫)

 本を書き始めてから「自己啓発」や「ハウツー本」を読むようになりました。それまでは読もうと思ってもどれを手にとっていいか分からなかったのです。

 あまりにも本の数が多すぎます。読んだところで「ぐずぐずせずに、すぐにやり始める」という話を、手を替え品を替え書いてあるだけにも見えます。

 結局、立ち読み程度で終る本が大半でした。

 「自己啓発の本を一冊挙げるとすれば何ですか」と尋ねられたら、私は村上春樹の「走ることについて語るときに 僕の語ること」を挙げます。

 この1冊でいいと思っています。書棚、会社の机、鞄の中、枕元に置いてあります。

 パラパラとひらいたページから2、3ページ読む。それだけでもかなり元気がでたり、今の生活を見直す気になれるのです。

 中には一人の小説家が、毎日きっちり10枚の原稿を書くために、毎日10キロ走る。フルマラソンにも出場するということが書いてあるだけです。うまくいかないことも多く、時おり弱音も吐きます。

 それでも私が、座右の銘となる自己啓発本としてこの一冊を挙げるのは、「コツコツと継続する気力」と「とことん自分を追い込む気迫」の大切さが、経験に裏打ちされた言葉で書かれているからです。

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