落ちこんでいるときに元気がもらえたり、新しい視点が得られたり……ときには、人生が変わるほどの大きな力を持つ「本」。広告代理店のクリエイティブプロデューサーとして数多くの「人の心を動かす言葉」を生み出してきたひきたよしあきさんによる『あなたを変える「魔法の本棚」』連載では、読むたびに自分の個性や知性が磨かれ、人生が前向きに変わっていくことを実感できる“特別な1冊”を厳選して紹介していきます。

◆今回のことば

「思い出すというか、甦る。遠い過去の記憶という感じじゃなく、私の中に眠っていたものが目を覚ますような感覚」

――「黄色いマンション 黒い猫」より

病気や元気のない友だちにプレゼントしたい最高の一冊、「黄色いマンション 黒い猫」(小泉今日子 スイッチパブリッシング)
病気や元気のない友だちにプレゼントしたい最高の一冊、「黄色いマンション 黒い猫」(小泉今日子 スイッチパブリッシング)

 私が10代の頃、音楽は主にカセットテープで聴いていました。

 レコードから直接録音して、A面、B面にふりわける。好きな音楽を、好きな順に並べて女の子にプレゼントする。真っ白いインデックスカードにきれいな字で曲名を書こうとするときの緊張が、甘酸っぱい思い出として残っています。

 このエッセイも、そんな時代の物語。

 電話もテレビも一家に一台で、日曜日になると「タケノコ族」を見に原宿に行って、「金八先生」に衝撃を受けながら、カセットテープに耳を傾けていた小泉今日子さんの思い出が記されています。

 しかし、ただ懐かしいだけのエッセイではありません。ここには、たくさんの「死」が描かれています。父が死に、幼なじみが死にます。

 表題の「黒い猫」は、アイドルになったキョンキョンの黄色いマンションのドア下に段ボールに入っていた猫のこと。なんと、両目をつぶされていました。キョンキョンが抱きかかえると、目の見えない猫は、腕をすり抜けひょいっと7階のマンションから落ちてしまいました。その情景を、今現在飼っている暢気な灰色の猫と比べながら淡々と書いています。