誰もが京都LOVE! という時代に刊行された『京都ぎらい』
京都は今、世界の観光都市人気ランキングのトップを独走しています。円高や安全な街であることも手伝って、世界中の人々が京都に集まっています。
この本は、誰もが京都LOVE! という時代に、「千年の古都のいやらしさ、ぜんぶ書く」と銘打って出た本。今年の新書大賞で第一位に輝きました。
何がいやらしいのか。この街は中華思想が強く、特に「洛中」と呼ばれる中心部の人から見れば、作者の育った嵯峨野の、山科も、宇治も洛外は「京都」と呼ばれるような場所ではない。みんな「よそさん」だと思われているというのです。この差別意識を赤裸々に綴ったことに対して「よく書いた!」との声が上がっているというのですが、「よそさん」も「よそさん」、無粋の極みである私は快く受け取れませんでした。むしろ、こう書いている作者の中にも、他の地域に対する差別意識があるのではないかと穿った考えをもったほどです。
中華思想をもっているという洛中はどうか。浅薄な誘致活動のおかげでマンションの建設が進み、古くから洛中に住む人の数がどんどん減っています。そこに入る人々は、当然古くからの自治活動や文化を守るボランティアには無関心。洛中を洛中たらしめた人の営み、つながり、歴史文化を守るための活動が日に日に希薄になっているのが現状です。
世界規模で起きている京都ブームに直面して、京都そのものが削りとられている。そんな時代に「京都人のえらそうな腹のうち」を暴露することに果たして意味があるのかというのが私の印象です。
2020年の東京オリンピックに向けて、京都もますます変容していくことでしょう。そのときになっても私は、川辺で焼きそばを食べながら、その景色を、せせらぎを、風の音を、伝統を、人のこころを1000年の都が削りとられることなく堪能できる都であってほしいと願うばかりです。
文/ひきたよしあき 写真/PIXTA
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